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PC5・ローズマリー

 違法な地下賭博場に昼夜の概念は無い。
 存在を知っているのであればいつ何時訪れても誰かしら居るもので、どのような時間帯でも賭けが行われている。
 盗賊ギルドによる摘発作戦が開始されたのは街の人々が起きだしてくる前――早朝だったのだが、それでも多くの客が隠れて博打に興じていた。

 ギルド員の突入の際、店にいたほとんどの者が乱闘に参加していた。
 手持ちの武器、ないしは酒瓶や椅子を手に、それも無ければ己の手足で戦闘に加わったが、店内にいた全員が盗賊ギルドの手によって倒され捕らえられた。
 だが乱闘開始時に2人だけがその場から逃げのびていた。
 どちらも違法賭博を取り仕切る運営スタッフで、彼らは戦闘に参加するよりも早く自分たちの摘発に繋がりそうな証拠品の類の隠蔽に務めたのである。
 例えば顧客リスト、例えば客に売りつけるための薬物、例えば自衛手段としての武器類……。
 仮に店内にいる全員が捕縛され治安隊に引き渡されたとしても、違法賭博の決定的な証拠が無ければ、重罪にはならず、あわよくば数日の内に釈放されるであろう。
 そのためには自分たちは決して捕まってはならないのだ!

 賭博場に作られた隠し通路を通って彼らは外の世界に飛び出した。
 脱出場所として用意されたのは交易都市リューンの裏通りの一画だった。
 日が昇り、街の様子が明るい色を伴って確認できる時間帯だが、裏通りである以上、人通りは皆無だ。
 このまま路地を駆け抜け、適当な場所に証拠品の数々を隠しておき、ほとぼりが冷めた頃に回収し、リューンを離れ別の場所でまた賭博場を開けばいい。
 今は一時の敗北を甘受するのだ……。

 だが世の中において悪い事というのは立て続けに降りかかるものなのだ。

 脱出に成功した2人の前に1人の人間が立ち塞がっていた。
 長い金髪を頭の横で2つ結びにし、結び目には大きな赤いリボンが結わえ付けられた――いわゆるツインテールの髪形をし、膝の上までの長さの短いスカートという出で立ちの女性である。
 いや、女性と呼ぶにはその人間は身長が低く、どちらかと言えば少女と呼ぶべきだった。

「な……、お、女の子……?」

 あまりにも場違いな存在にさしものヤクザ者も困惑を隠せなかった。
 ここが裏路地で朝から誰かが迷い込んだにしては、目の前の少女から発せられる雰囲気はあまりにも場にそぐわない。
 突然現れた男2人に驚くどころかむしろこちらを見据えて仁王立ちをしているのだ。
 加えて少女の腰の後ろには、どう考えてもその可愛らしい見た目に似合わない剣が2本差してある……。

「ちょっと君、こんな所で何してるの。ここは今から危ない人たちが集まるかもしれないんだから、ケガしない内に早く離れた方がいいよ?」

 それでも何とか平静を取り戻し、男たちは危険に巻き込まれた一般市民のふりをして少女をその場から逃がそうとする。
 いくら相手が子供でも逃走の現場を見られるのは大変によろしくない。
 片方が少女にこの場から離れるよう促そうとして近づいたその時だった。

 少女の両手が腰の後ろに回され、そこから伸びた剣の柄にかかったかと思うと、少女は2本の剣を同時に抜き放ち、近付いてきた男の両の太腿を切り裂いた。
 斜めに一閃された太腿は筋肉に力が入っていなかった分、刃の侵入を容易く許し、血管を断ち切られ紅い血が噴き出す。
 男が足の痛みを知覚したのは噴き出た血液が少女の顔に飛び散ったその後だった。

 突然襲い来る痛み。
 流れ出る血が太腿から下の皮膚と衣服を紅く染め上げる。
 だがそれだけで終わらない。
 少女の逆手に構えられた剣が今度は男の額を真一文字に傷つけ、それに驚いた男が数歩よろけて下がると、今度は真下から剣が振り上げられ正中線に沿って切り裂かれる。
 5秒ほどの間に4回もの斬撃を受けた男は耐えられる痛みの許容範囲を超えて、それ以上の痛みを感じなくなるよう意識を失った。

「な、何だ! 何をするんだ!?」

 少女の蛮行にもう1人の男が驚愕する。
 それもそうだろう。およそ10歳程度にしか見えない可愛らしい少女が、突然剣を抜き放ったかと思えば何のためらいも無くそれを操って男を1人血に染め上げたのだ。
 返り血をその身に浴びた少女は先程と変わらず2本の剣をそれぞれ逆手に持った状態でもう1人を油断なく見ている。

「何をするも何も、これがアタシの仕事なのよね」

 事も無げに言ってのける少女に男は戦慄せざるを得ない。
 表情1つ変えずに人を斬り倒すなど常識では考えられない。
 だがたとえ目の前の少女が何者であろうと、自分がやるべきことがこの場を逃げ延びることなのは変わらない!

 三十六計逃げるに如かず。
 背後から襲われ背中を斬りつけられることになるとしても、殺されてしまうよりはましだ!
 男は逃げ出した。
 戦おうなどとは考えもしなかった。
 そしてその判断は正しかった――はずだった。

 逃げ出す際に男は少女に完全に背を向ける。
 危機回避のために男の上半身が先に動き、それに続いて足が地面を踏みしめる。
 踏み込んだ足の力が推進力となり最高速度を叩きだすのだが、その分、どうしても足が離れるのが遅くなってしまう。
 そこを少女は見逃さず、両の手に持った剣で男の足の腱を切り裂いた。
 最短距離で少女から離れるための行動だったのだが、それが逆に仇となった。
 地面を踏む力が腱を斬られたことで失われ、バランスを崩した男はその場に倒れ込む。

 逃げられない。
 それを理解した男は自らの死を覚悟した……。

*     *     *

「いや、確かに逃げる連中がいたらここで止めろとは言ったよ。場合によっちゃ殺してもいいとは言ったけどよ」

 違法賭博取り締まりのために集められた盗賊ギルドのメンバー――先のガルディスの上司を務める男が少女の起こした惨状を見て肩をすくめた。
 この男は少女――同じく盗賊ギルドに所属する冒険者ローズマリー・レイドワイズの上司でもあった。

 違法賭博を運営するような連中が、何の対策も無しにただ摘発され捕縛されるのを待つはずが無い。
 摘発に乗り込んできた盗賊ギルドやリューン治安隊を相手にするための戦闘準備があるだろうし、そうでなくとも全員で逃げ出すための抜け穴の1つや2つくらい用意していておかしくない。
 ローズマリーに与えられた役割は、要はそんな脱走者の足止めだった。
 当然ながら相手からの激しい抵抗も予想されるため最悪は殺害も許可する、と上司は言ったのだが、だからと言って本当に殺しにかかる奴がいるか……。

「殺してほしくなかったならアンタの人選ミスを呪いなさいよ」

 渋い顔をする上司にローズマリーは鼻で笑って見せる。

「アタシに対して殺すなって言うのは息をするなって言うのと同じ意味よ。捕縛だけが目的ならアタシ以外で2、3人くらいよこすべきだったんじゃない?」
「いやまあそりゃ確かにそうだけどな。だからってこれはやりすぎじゃないかね?」

 眼下に見えるは赤色の海だった。
 体のあちこちをローズマリーが得意とするショートソードの二刀流で刻まれ、そこから噴き出た男たちの血が裏通りの地面をねっとりと濡らしている。
 それどころかローズマリー自身さえも返り血で赤く染まっていた。
 とはいえ、この惨状は脱走を図る連中の足止めをローズマリーに命令した時点で予想して然るべきもののはずだ。

 ローズマリー・レイドワイズは星屑の夜空亭に所属する冒険者であり、リューンに数ある盗賊ギルドの1つに所属する盗賊であるが、それとは別に殺し屋という顔も持っていた。
 2本の剣をどちらも逆手に持ち、肉体をあちこちを切り裂き目標を血まみれにした上、自身も返り血で赤く染めるその姿から「ブラッディ(血まみれの)・マリー」という異名を持つ女殺し屋。
 冒険者をやっている今でこそ殺しの依頼は積極的には受けないが、状況が許すなら殺人に一切の躊躇を見せない凶暴な少女。

 脱走者の足止めが彼女1人に任されたのは、周囲に他の誰かがいれば満足な動きができないからというものでしかない。
 無論、ローズマリー自身もそれを承知していたからこそ足止めを単独で引き受けたのだ。
 自分だけしかいなければ遠慮なく動けるから……。

「まあ最悪は捕まえた他の連中から色々聞きだせばいいんだけども、出来れば情報源はもう少し欲しかったな」

 状況を考えて動けと上司は暗に非難したがそんなことで反省するようなローズマリーではない。
 殺し屋が殺しをやめるなど自身の存在意義にも関わる大問題だ。
 無論、そんなことを言おうものならこの上司からさらに長い説教を聞かされることになるのは火を見るよりも明らかなのだが……。

 だからこそローズマリーは行動で示してみせた。
 倒れている違法賭博の運営スタッフ2人を何も言わずに蹴りつける。
 突然体に衝撃を与えられた男たちは、全身を血にまみれさせたまま呻き声をあげた。
 どうやら彼女は全身をズタズタに切り裂いたものの、殺してはいなかったらしい。

「これで満足?」

 どうだ、お前のリクエストに応えてやったぞ。
 とでも言うかのようにローズマリーは笑顔を見せた。

「……満足するとしよう」

 上司は肩をすくめながら、自身の敗北を認めてやることにした……。

*     *     *

 ローズマリーが星屑の夜空亭に帰り着いたのはそれから10数分後だったが、宿の1階にてくつろげるようになったのはさらに30分も後の事だった。
 それもそのはず、彼女は先程の戦闘――という名の殺戮もどきによって全身が返り血で真っ赤に染まっていたのだ。
 見苦しいというよりも気持ち悪くなるその出で立ちに、ローズマリーは宿の娘カレンによって有無を言わせぬまま浴室に放り込まれ、全身の返り血を洗い流された後に部屋に置いてあった替えの服に着替えさせられたのである。

「毎回思うけど、依頼とかで戦う度に返り血で真っ赤になるのってどうなの?」
「アタシがブラッディ・マリーと呼ばれる所以ってやつなんだし、しょうがないじゃない」

 仕事をこなす前と同じ姿になったローズマリーはカレンの文句にまだ濡れたままの髪をタオルで拭きながら同じく文句を返す。
 ローズマリーとしても自分が返り血で染まる度にとりあえず浴室に放り込むカレンの所業に文句を言いたいのだ。
 1度文句を言ってみたところ、それはそれはいい笑顔を返され、そのあまりの迫力に負けて以来どうしても文句を言えなくなったが……。

「ところでガルディスさんはどうしたの。あの人も一緒に依頼を受けたんでしょ?」
「アイツはギルドに残って報告の手伝いしてるわ。手入れで最初に乗り込んだのアイツだしね」
「ギルド員っていうのも大変ね。……って、ローズマリーちゃんもギルド員でしょ、報告はどうしたの?」
「あ~、アタシはそういうの苦手だからさっさと切り上げちゃったわ」
「……押し付けたのね」
「適材適所って言ってよ」

 実際のところローズマリーは頭脳労働は苦手な方だ。
 そのために盗賊ギルドに対する報告は、同じギルドに所属するガルディスに任せっきりであることが多い。
 もっとも、そのガルディスも頭脳労働は苦手だったりするのだが、立場的にはローズマリーの先輩にあたるためどうしても断れずにいる……。

「そんなことよりカレン、祝杯の葡萄酒がまだなんだけど?」

 酒場のカウンター椅子に腰かけ、棚に置かれた葡萄酒の瓶に目を向けるが、その瓶はカレンによって遠ざけられてしまった。

「だーめ。ローズマリーちゃんは子供でしょうが」
「子供じゃないわよ! アタシはこれでも16なんだから!」
「……毎回思うけど年齢詐称してるんじゃないの?」
「してないわよ! 最低でも16年生きてるのは間違いないんだから!」

 この会話も毎回のものである。

 実際のところローズマリー・レイドワイズという少女が16歳であることはほぼ間違いない。
 だが本人の自己申告によるところが大きいのと、彼女が自身の誕生日を知らない上その出生が不明であること、及び彼女の見た目が10歳程度の少女のそれでしかないところから、16歳なのだと誰も信じてくれないのだ。

 しかもフルネームのローズマリー・レイドワイズというのもどこまで本当なのか定かではない。
 幼少の頃から自分がローズマリーと呼ばれていたことで自分の名前がそれだというのは間違いないが、姓のレイドワイズについては情報源が無いに等しいのだ。
 気づいた時には暗殺者ギルドにて小さな手に剣を握りしめ、人を殺す技術を教わってきた彼女は自分の正体について一切知らない。
 当時、身に着けていた装飾品に「レイドワイズ」と書かれていたことからおそらくそれが彼女の姓なのだろうという予想で、その名前がどういう意味を持つのかを知らぬまま彼女はそれを名乗っているだけに過ぎない。
 その装飾品も暗殺者ギルドに所属する頃には失われてしまい、今ではそれが何だったのか、もはや思い出すこともできない。

 それから時が経ち、リューンの盗賊ギルドに所属するようになってからも彼女は自身をローズマリー・レイドワイズと名乗り続けている。
 自身の出生の秘密について興味を持ったことはあるが、10数年の歳月が彼女から興味を奪い、まして冒険者をしている今となってはもはやどうでもよいものとなっていた。
 今の時点でそれなりに楽しくやっているのだ。
 今更、自分の生まれ育ちがどのようなものであろうと、今の自分を変えることなどできはしないのだから……。

「でもどっちにしてもお酒はだめよ。丁度依頼が入ってるんだし」
「……あ、そうか。そういえば昨日そんな話してたっけ」
「そうよ。それを前にして酔っぱらうわけにもいかないでしょ?」
「……朝から働いて、祝杯を挙げる暇も無く、また働くのかぁ……。一体いつになったら飲めるのかしらね、アタシのお酒」
「依頼が終わったら飲む暇くらいあるでしょうが! 雰囲気出さないの!」

 言いながらカレンは一仕事終えたばかりの小さな殺し屋のために朝食を作ってやる。
 同じ宿に所属する女軍人が買ってきてくれた食材がたくさんあるのだ。
 少しばかり奮発してやろうではないか。
 もっとも、こんなので満足するようなローズマリーではないだろうが。

 腰の後ろに差した2本の剣が武器。
 両方とも逆手に構えて高速で突進するのが彼女のスタイル。

 返り血で自分を赤く染めるのが好き。
 葡萄酒の赤もお気に入り。
 着る服も所々に赤が盛り込まれている。
 赤色が好きでたまらない。

 見た目のせいで子供扱いされるが実年齢は16歳の若者。
 だというのに年齢相応の落ち着きが無いのはなぜなのか。

 見た目は少女、中身は女殺し屋ブラッディ・マリー。
 それが盗賊でもあるローズマリー・レイドワイズという女なのだ。

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万能型
高貴の出   不心得者   猪突猛進
貪欲     利己的    混沌派
進取派    好奇心旺盛  過激
高慢     軟派     ひねくれ者

【初期所持スキル】
・盗賊の眼…入手シナリオ・鼠の行路(SIG 様)
・薙ぎ疾風…入手シナリオ・SIMPLE2000シリーズ THE野宿(絹漉とうふ 様)

 パーティの盗賊役その2、ローズマリーです。
 ガルディスと同じく盗賊として活躍してもらう予定ですが、本質的には「殺し屋」であるため、専業の盗賊ではありません。
 ついでに「暗殺の一撃」も習得予定は(今のところ)ありません。
 ひとまず盗賊系スキルは覚えさせて、それから風系の遠距離攻撃とかを覚えさせる予定です(薙ぎ疾風を持たせたのはそういう意味だったり?)。
 設定上は16歳ですが、ゲームシステム的には「_子供」です。
 そのため、口調振り分け等で子供枠が当てられてしまいますが……、まあリプレイでは若者の女性口調で書かせていただきます。

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しがないカードワースのリプレイ書き。とある所でTRPGのプレイヤー&ゲームマスターもしております。
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