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PC6・エリカ

 目覚めの光が街を照らしていくにつれて、生きとし生ける者たちは1人、また1人と起きだしていく。
 時には1人で、時には同じ場所に住む家族と共に。
 目覚めの時を宣告して、ある者は商売のための店を開け、ある者は離れた所へと働きに出かけ、またある者はそうした生活とは無縁とばかりに暇を持て余し、またある者は知り合いに会うべく外へと出かける。

 眠っていた街に喧騒が戻ってくる。
 交易都市リューンはその名の通り、周辺地域との交易によって成り立つ街であり、そこには当然のごとく人が集まってくる。
 人と言ってもそれは人間だけではない。
 中には人間と姿形の変わらないエルフやドワーフといった亜人種もいる。
 その年齢層も子供から年寄りまで様々で、一部の裏通りなどを除けば人のいない所は無いだろう。

 交易都市という名前だが交易だけしか存在していないわけではない。
 人が住むための住宅街もあるし、信仰を持つ者のための教会もある。
 また、人が集まり交流を深めるための憩いの場もある。

 リューンは広い街だ。
 商店の数はもとより、住宅街も1区画だけでなくいくつも存在し、またこの世界に広く伝わる宗教――聖北教会も1軒だけでなく、いくつもの教会が点在している。
 裏通りに代表されるようなスラムも1ヶ所だけではないし、無論、憩いの場も1つしか無いわけではない。

 リューンの憩いの場の1つに大きな噴水があった。
 地下から汲み上げた水を独特な形に変えて噴き出させ、その勢いを無くした水が溜まっていた水に落ちていく。
 水同士の衝突音と、舞い散る水飛沫が清涼感を生み出すそこは、冬場はともかく夏の暑い時期には涼を求めてやって来る者たちにとって、最も手軽な避暑地となっていた。

 噴水周辺に人が集まらない日は無い。
 無論、人数に差こそあるものの、必ず誰かがそこにいた。
 それは例えば休息のためであったり、露店を開いて商売するためであったり、はたまた目立つ場所であることを利用しての待ち合わせを行うためであったり……。
 とにかく何かしらの理由で誰かがそこにいる。
 そして今日もまた、やはり人が集まっていた。

 石造りの噴水の縁に腰かけ、すらりと伸びた左手の指先を水の中に沈める。
 誤って落ちないように右手は噴水の縁に添えておく。
 膝の上には愛用の小さな竪琴。
 目を閉じて視界を一面の闇に変え、尖った耳が話し声や足音を捉え、風が長いプラチナブロンドを撫で、陽光の熱が色白の皮膚に降り注ぐのを感じる。

 美しいエルフの少女だった。
 見た目は10代前半といったところの、何も知らぬ子供から少女へと変わってゆく境目だが、外見年齢にそぐわない落ち着きと美貌を有していた。
 長命種であるエルフは個体によっては人間の10倍以上の年月を生きる。
 彼女も実際は130年を生きており、どうやら落ち着いた佇まいはそこから来ているようだ。
 腰の下にまで伸びた長い髪はプラチナの色に輝いており、身に纏う白と桃色を基調としたおしゃれな衣服と相まって、妖精か精霊が血肉をもって存在しているのかと思わせる。

 彼女の存在に気づいた幾人かがその一挙手一投足を注視する。
 噴水の縁に腰かけて微動だにしないその姿は、この広場ではすでになじみのものとなっている。
 そしてそんな彼女がこの後何をするのかも知っている。

 左手に水が絡みつくのがわかる。
 吹く風が髪を梳いていくのがわかる。
 降り注ぐ日が頬を包むのがわかる。
 足が触れる地面から生き物の鼓動が伝わってくるのがわかる。
 どうやら今日の自然たちはとても機嫌がいいらしい。

 ならばこの歌にしようか。
 エルフの少女が縁にかけていた右手を膝の楽器に伸ばし、水から左手を引き抜く。
 沈められていたはずの指先に水滴は一切ついていない。
 引き抜いた瞬間にはすでに乾いていた。
 右手で竪琴を構え、左手の指がその弦を1本ずつ揺らしていく。
 弦の張り具合を確かめてから、知っている音階を呼び出し、指先をもってそれをゆったりと奏でる。

 少女の口が開いた。

 ♪ 踏みつける広い大地は 私の揺り籠
   生まれた私の体を 優しく包むの ♪

 開かれた口と喉から生まれるは歌。
 音階と歌詞を組み合わせて作られる楽曲。
 英雄譚や詩といった語り継がれるようなものではなく、純粋な心や気持ちを乗せただけのもの。

 エルフの少女は歌い手だった。

 ♪ 流れゆく輝く水は 心を洗って
   穢れや涙、汚れたち 清めてくれるの ♪

 ♪ 燃え上がる炎は ほら 優しいぬくもり
   凍り付いた氷を ねえ 融かしてください ♪

 少女が歌うのは彼女が自ら考えだしたものではなく、すでに世の人々が知るような既存の楽曲である。
 彼女はあくまでも生み出す立場にはなく、誰かによって生み出されたものをただ歌うのみ。
 歌うのは彼女の趣味だが、以前他人に対して戯れに歌ってみせたらそれが好評だったため、最近は趣味と実益を兼ねて酒場や広場などで気まぐれに歌い金銭をもらうストリートミュージシャンのようなこともしている。
 作詞や作曲は今のところ考えてはいない。

 ♪ ほらほら風は踊りまわる 世界をぐるりと回しゆく
   ほらほら吹き抜ける風は 世界に思いを届けてく ♪

 歌う姿に道行く人々が足を止める。
 竪琴と少女の口から放たれる音が空気を震わせ、それが優しく人々の耳に入ってくる。
 ハイテンポな激しい歌は彼女の趣味ではないし、また周囲の誰もが彼女がそういった歌を歌うのを求めていない。
 美しいエルフには静かな曲が似合うものだ。
 彼女の歌う「精霊賛歌」は比較的ゆったりとした曲で、歌詞が少ないが歌い終わるのに5分近くかかる。
 精霊に近しい存在である彼女はこの歌を気に入っている。

 ♪ 地よ水よ 炎よ風よ 世界の友よ
   私の隣で今日も 共に生きてゆくの ♪

 最後のフレーズを歌い終わり、余韻を残すように少々のメロディー。
 竪琴から音が途切れると、その一瞬後に周囲の人々から拍手が起こる。
 拍手に混じって心付けとばかりに銀貨も放られる。
 足元に転がる銀のきらめきに少女は苦笑いを浮かべた。
 歌いたい気分で来ただけなのに……。
 とはいえ、この銀貨は彼女の歌に対する報酬のようなもの。
 いただかないというのはかえって失礼になるかもしれない。

「エリカ!」

 逡巡していると観客の中から自分を呼ぶ声が聞こえた。
 エリザティカ・レンコップ――愛称エリカの耳に届いた高い声は、確か自分のファンを名乗る男の子のものだったか。
 朝のこの時間に噴水で歌うとほぼ必ず聞こえる声だけにすっかり覚えてしまった。

 声の聞こえた方に目を向けると、やはり件の男の子が駆け寄るところだった。
 よほど熱狂的なファンなのだろう、人込みをかき分けて最前列で歌を聞きたがるし、あるいは我先にと曲のリクエストもしてくる。
 もちろん、そういったファンの存在は彼女にとってありがたいものだった。
 ただの趣味として歌っているだけではあるが、そんなものでも聞きたいと言ってくれる者がいるのだ。
 悪い気はしなかった。
 少々強引なきらいはあるが……。

「エリカ! 『朝占い』歌って!」
「また? あの歌そんなに好きなの?」
「エリカが歌うのは何でも好き!」
「……何でもいいんだ?」
「うん!」

 と言いつつ7割の確率で同じ歌をリクエストするのはどういうことだろうか。
 しょうがないなぁ、と苦笑しつつも指定された歌の音階を呼び出す。
 客からのリクエストに応えるのはプロとして当然のことだ。
 別にプロを自称した覚えは無いが……。

 ♪ カーテンから光が差し込んできて おはよう
   今日の朝はどんな顔してるかな 占いの時間 ♪

 ♪ 晴れの日雨の日曇りの日 それとも
   まだ私の知らない朝の顔 見せてくれるの? カーテン開けよう! ♪

 ♪ 目の前に広がるは灰色で ちょっぴり涼しい曇りの日 
   そうだお茶を淹れよう 体を温め
   この後の変化 期待しちゃいましょう ♪

 静かにゆったりと歌われる「精霊賛歌」と違い、この「朝占い」はどちらかと言えば軽やかなアップテンポの曲だ。
 先程は噴水の縁に座りながら、弾き語りよろしく竪琴を奏でていた。
 だがこの歌の場合は座ったままではむしろ歌に対して礼を失することになってしまう。

 噴水から腰を浮かせ、立ち上がる。
 竪琴を右手で抱え、左手で爪弾く。
 軽くステップを踏みながら、少女は歌う。

 ♪ 毎朝 目覚めるたびに世界は ころころ
   素敵な色や音の数々 見せてくれるの ♪

 ♪ 晴れの日雨の日曇りの日 どれでも
   嫌いな朝なんてありはしない とはいえ 好きな朝はあるけどね! ♪

 ♪ 水たちのダンス眺めて ぱらぱら今日は雨降りさん
   土や木々を叩いて 演奏会ね
   自然が奏でる オーケストラ聴こう ♪

 楽器を演奏しながら大きく動くことはできない。
 できるのはせいぜい足踏みと体を軸にした回転くらいだ。
 1歩、2歩、3歩、ターン。
 1歩、2歩、3歩、ターン。
 プラチナのブロンドと膝丈のスカートを翻し、竪琴の音色と共に少女は踊る。

 それにつられたのか、集まっていた人々の反応も変わってきた。
 ステップに合わせて手拍子を送る者、足踏みの音を追加する者。
 子供たちはエリカの動きを真似てステップとターンで彩りを添える。

 間奏が終われば最後の小節だ。
 エリカの左手が目まぐるしく動き竪琴の弦を次々と弾いていく。

 ♪ 飛び込んでくるのは光 きらきら眩しい太陽の日
   日差しをめいっぱい浴びて 命の鼓動を感じながら 今日も生きてゆく ♪

 ♪ 青い空に白い雲に 緑の木々に茶色い土に
   色づく朝を歩いて まだ見ない人に
   今日も出会って 朝の挨拶しよう! ♪

 1歩、2歩、3歩、ターン。
 最後の演奏が終わる。

 集まった観客たちに一礼すると、再びの拍手。
 先の歌の時と同じく銀貨が放られる。
 1枚2枚だけでなく、時折10枚程度が小さな袋に入れられて放られてくる。

 1曲目でもそうだったが、今日は金策ではなくただ歌うだけのつもりでここに来たのだ。
 そのため集金用に使っているバスケットは持ってきていない。
 しかし集まった銀貨をそのまま捨ておくのも気が引ける。
 と思っていると、それに気づいたのか周囲の子供たちが地面に落ちた銀貨を拾い集めだした。
 その光景からエリカがこの後の展開を予想するのは容易かった。

 次に彼らは、

「はい、エリカ。集めておいたよ!」
「……っていうのがいつものパターンよね、やっぱり」

 そう、善意からエリカに投げられた銀貨を集めて、それをエリカに渡そうとするのだ。
 彼らのこうした行動は別にエリカが指示したものではない。
 街中で歌い、いくばくかの金銭をもらうことにした当初は、集まった銀貨はエリカが自らの手で集めていた。
 それがいつの間にか、エリカの歌を聞きに来た子供たち――大半は男の子だった――が自主的に回収を買って出て、今ではそれが当たり前の光景になっているのだ。

 エルフ年齢で130歳のエリカは見た目は人間の13歳に相当する。
 エルフ特有の美しさを持つ彼女は、近所の男の子たちにとってのマドンナ的存在だった。
 それゆえに一部の女の子からやっかみを受けることも無いではなかったが、基本的に男女分け隔てなく接するエリカを心から悪く言う者はいなかった。
 仮にいたとしても周囲の子供が親衛隊よろしくエリカを守ろうとするし、そうでなければエリカ自身が強烈なお仕置きを与えるものだから、面と向かって彼女に危害を加えようとする愚か者はいなくなっていた。

 そんな子供たちの人気者はこの状況を打破することができないでいた。
 ただ歌いに来ただけだ、と言えればそれでよかったのだが、相手が純粋な子供だけにそれが言えない。
 これが大人相手であれば逆に遠慮なく断りの文句を入れられたのだが……。

 ところがそんなエリカの悩みは突然打ち切られる。
 警笛を鳴らしながら、人垣をかき分けて何者かが近づいてきたのだ。

「あ~、失礼、そこの君。治安隊の者なんだがね」

 エリカに声をかけてきたのは男性で、どうやらリューン治安隊の隊員らしい。
 この状況下、単独で声をかけてきたということは、街頭で楽器演奏と歌唱を行うこと、及びそれで金銭を得るのが迷惑行為に当たると注意しに来たのだろうか。

「いや別にね、演奏するなとか歌うなとか言うつもりは無いんだよ。もちろん銀貨を貰うのもダメとか言うわけじゃないんだよ。でも君ね、許可持ってるの? さすがに無許可だと見過ごすわけにはいかないんだよね。周りのみんなは喜んでるかもしれないけど、さすがに無断でやられてるとなるとこっちが困る――」

 そこまで言ったところでエリカは治安隊の男の眼前に1枚の羊皮紙を突きつけた。
 役場から発行された公的な書類であることを示す印鑑と共に「許可証」の文字が大きく書かれていた。

「当然、許可は得ておりますが何か?」

 努めて笑みを浮かべてエリカは事実を述べた。

「楽器演奏についても、歌唱についても、ましてその報酬として金銭を得るということについても、この通りしっかりと許可を頂いております。ついでに言うと、私が街中で歌うのは1度や2度ではありませんし、こうして許可証を提示するのも同じ数だけあるんですよね」

 目の前に突き出された羊皮紙の内容を目で追った治安隊員は己の言動を後悔した。
 目の前のエルフの少女が無許可で歌っていると決めつけ、あまつさえ説教しようとしたのだ。
 この後にこの治安隊員がとるべき行動は決まっている。
 自身の失礼を詫び、その場から立ち去ればよいのだ。

 だが男はその行動に移ることを許されなかった。

「そうだぞおっさん! エリカが許可無くやってるわけないじゃないか!」
「何か月も前からエリカは色んな所で歌ってるんだぞ!」
「治安隊とか自警団とかみんな知ってるのになんでおっさんは知らないんだよ!」
「お、おっさんて、俺はまだ23――」

 周囲に集まっていたエリカのファンクラブの男の子たちから一斉に非難の声を浴びせられる治安隊員は、哀れにもその場から離れることができずにいた。
 何を隠そうこの治安隊員はつい最近入隊したばかりの新人で、エリザティカ・レンコップという少女が何か月も前からストリートミュージシャンよろしく歌って回っていることを本当に知らなかったのだ。
 そこに新人特有の仕事熱心が重なって暴挙に出てしまった。
 その結果が、特に子供が見せる集団暴力の被害だった。

 だがこれは今のエリカにとって非常に都合がいい状況だった。
 注目の目がエリカから治安隊員に移ったのだ。
 話を切り上げてこの場から退散するなら今しかない。

「ねえ、みんな。せっかくだからその銀貨は私からみんなにプレゼントね。それでおいしいものでも食べちゃいなさい」

 言いながらエリカはいそいそと撤収準備を始める。

「え~、エリカ、帰っちゃうの!?」

 当然ながらファンクラブからは不満の声が漏れる。

「ごめんね。この後お仕事があるの」
「それって冒険者の?」
「そうなのよ。だから今日はここまでね」
「ええ~!」
「よかったらまた後で星屑の夜空亭に遊びに来てちょうだいね。後、そのお兄さんの事、あんまりいじめちゃだめよ」

 言い残し、彼女はその場から走り去ってしまった。
 後にはエリカからプレゼントされた銀貨で何を買いに行こうか話し合う子供たちと、あっけにとられる治安隊員の姿が残された。

 星屑の夜空亭に所属する歌い手、というのは彼女の姿の1つ。
 彼女には冒険者という姿もあった。

 エルフの彼女には生来、世界に存在する精霊と繋がる力がある。
 彼女は精霊術師でもあった。

 男の子たちのマドンナ、精霊と歌う歌姫、世界を駆ける冒険者の少女。
 エリザティカ・レンコップは様々な顔を持っていた。

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標準型
秀麗     田舎育ち   貧乏
誠実     冷静沈着   無欲
献身的    秩序派    保守派
無頓着    穏健     勤勉
陽気     派手     上品
繊細

【初期所持スキル】
・水淑女の守…入手シナリオ・風鎧う刃金の技(Y2つ 様)

【備考】
・上記シナリオにてクーポン「精霊術師の徴」取得→経験点-1

 パーティ6人目、エリカです。
 はっきり言って彼女が最も難産でした。
 歌の歌詞をオリジナルで考えないといけないんだもの……。
 エリカは歌い手で精霊術師です。
 あくまでも「歌い手」であって「吟遊詩人」ではないのがポイントです(でもスキルによっては『吟遊詩人』クーポンが必要になるかもしれないので、こっちはこっちで持たせてます)。
 そのため呪歌スキルは持たせますが、あくまでも彼女の本業は精霊術師の方なので、メインは精霊術スキルになります。
 持たせる精霊術も「召喚」や「憑精術」ではなく、「霊験」メインです。
 システム的にカードワースのスキルでこれを表現するのはちょっと厳しいのですが、エリカには「精霊を使役するのではなく、自ら精霊の力そのものを操る」という設定があるからなんです。
 表現的には、変身せず、猫を連れておらず、脱がない「超少女明日香」みたいなもんだと思っていただければ……。

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Author:GM屋
しがないカードワースのリプレイ書き。とある所でTRPGのプレイヤー&ゲームマスターもしております。
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