fc2ブログ

その名はワースハンターズ

 冒険者の宿「星屑の夜空亭」は、交易都市リューンに点在する宿の中でも老舗に分類される。
 何年前から建てられたのかは今となっては誰も知らないが、幾人もの経営者が代替わりを繰り返しながら続いてきたのは間違いない。
 今に至るまでに何人もの冒険者が生まれ、育ち、そして消えていった。
 成り上がった末に王宮や貴族のお抱えとなった者。
 結婚して家庭を設け、静かな生活を送った者。
 旅の中、帰れなくなった者……。
 大半の冒険者が冒険の最中に命を落とし、そうでない者もいつの間にか名前も忘れ去られた。

 そして、その数ある冒険者の中に、英雄と呼ばれた者は、いない。

 冒険者というのはどちらかと言えば社会の底辺に属する集団だ。
 地位も名誉も欲しいままにしていたが落ちぶれてしまった元貴族や王族。
 家族を養いたいが運悪くまともな仕事に就けなかった親。
 家族に愛されず捨てられた孤児。
 高貴な身分を持ったまま冒険者になる者はそうそうおらず、ほとんどはチンピラやゴロツキに毛が生えた程度の「それよりは多少はマシ」な連中ばかり。
 だがごくまれに、数々の冒険を経て英雄とまで呼ばれるようになる例外中の例外が現れるのだ。

 冒険者は社会の底辺。だがいつの世も、その冒険者になりたがる者は後を絶たない。
 初代の経営者もご多聞に漏れず、そういったところに目を付けたのだろう。
 冒険者は天に散らばる星屑のような存在。
 そのほとんどは小さいが、中には大きく輝く星もあるものだ。小さな星々も集まれば夜空を彩る光になる。
 そういった意味を込めて「星屑の夜空亭」と名前を付け、冒険者を利用して金儲けを企んだのが始まりだった。

 そうして英雄こそ生まれなかったものの、運良く長続きした冒険者の宿。
 その今代の経営者はジョッシュ・クーパーという中年の男だった。
 かつては冒険者として数々の旅を経験し、それなりに名をはせ、所属していた宿を受け継ぎ、今度は自身が冒険者を受け入れ育てる仕事に就いた。
 さすがに体力の面では衰えたが、冒険者だった頃の知識と経験を活かし、亡くなった妻との間に生まれた娘カレンと共に、未来の英雄候補たちを支えるのがこの男の役目だった。

 だが、かつて自身が冒険者として多くの敵を屠ってきたそのツケが回って来たのか、星屑の夜空亭は未曽有の危機に瀕していた。
 冒険者の信頼と信用を根幹から揺るがす大事件により、所属する冒険者の大半が宿から出て行ってしまったのだ。
 冒険者の宿は、その名の通り冒険者という存在がいなければ成り立たない商売だ。
 その商売の種が無くなってしまえばどうなるかは想像に難くない。
 ジョッシュ自身、まさか自分の代で長年続いてきた宿を潰す破目に陥るとは思いもしなかったが、全ての冒険者の宿が永遠不滅ではなく、似たような理由で潰れたものもある以上、これもまた運命かと半ば受け入れてもいた。

 そんな星屑の夜空亭には6人の冒険者が所属していた。
 前述の「大事件」を経て、それでも宿に残ってくれた若者たちだ。
 長い棒を振り回す狩人の武術家ジョナサン・グレスティーダ。
 破壊専門の魔術師を母に持つ緑色の魔術師エリオット・グライアス。
 北の国から流れてきた長刀を操る女軍人ナオミ・アンダーソン。
 投げナイフとボクシングの使い手で西方訛のきつい盗賊ガルディス・ネイドン。
 腰に差した2本の剣が武器の小さな殺し屋ローズマリー・レイドワイズ。
 宿の歌い手にして精霊と繋がりのあるエルフの少女エリザティカ・レンコップ。
 この6人組こそが、星屑の夜空亭で唯一活躍するパーティだった。

 彼らは決して正義の味方ではない。
 金銭を含めた報酬と、それに伴う危険を比べて、生きるためにはそれなりに手段を択ばない。
 わざわざ悪の道に手を染める事は無いが、それでも所詮はチンピラ、ゴロツキと同義の底辺連中。
 だからこそ彼らは自分を高く見せようとはしない。

「偉くないからこそできる事がある」
「複数形のSは決して独りきりではないという意味」
「いついかなる時こそ自分らしくあれ」
 それが彼らの信条。

 ワースハンターズ。
 自身にとって最も価値あるものを追い求める者たち。

 彼らは自分たちをそう呼んだ。

*     *     *

 道を駆け、壁を上り、屋根を飛ぶ。
 日課にしている走り込みで同じコースは基本使わない。
 石畳のひびを避けながら、あるいは普通に、時にはつま先だけで、走り方にもひと工夫。
 目についた好みの女の子に声をかけるのは、……今日はやめておこう。
 宿に依頼が入っているという話があったと思うから、今日は普通に帰ろう。
 多少、後ろ髪を引かれる思いをしながらジョナサン・グレスティーダはリューンの街を駆けていた。

 上った屋根から通りを見渡せば、見慣れた緑色のシルエット。
 その後ろ姿を追い抜いて、屋根から飛び降りる。

「おわっ!?」

 男の目の前数10cmのところに突然何者かが落ちてきた。
 後ろ姿しか見えないが、背中に長い棒を括り付けた暗い金髪の持ち主は緑色のマントを羽織った男――エリオット・グライアスのよく知る人物だった。

「お先!」

 言い残し、ジョナサンはそのまま通りを駆け抜ける。

「――っ! 毎度毎度人の目の前に降りるなと言ってるだろうが!」

 聞こえているのか聞こえていないのか、魔術師の文句を背に狩人は走り去ってしまう。

「まったく、あの男は……」
「相変わらずやな、あいつは」

 そうしていると今度は横合いから声がかけられる。
 西方訛のその声の持ち主は盗賊ガルディス・ネイドンのものだ。

「別に走り込みをやめろとか言うつもりは無いが、気まぐれで人の目の前に飛び降りるというのはどうにかならないものか」
「そぉ言うたかてやめるあいつやないやろ。ましてワシらが言うたところで無視するだけやで」
「男の言うことは基本聞かん男だからな」

 ジョナサンに対する不満を口にしながら、ハーフエルフの2人は連れ立って歩きだす。

「ところで卿(けい)がここにいるということは『仕事』は終わったのか」
「そらもぉ。きっちりカタつけたがな。……ローズマリーの奴はさっさと帰ってもぉたけど」
「あいつはあいつで相変わらずか。実に逃げ足は速い」
「まったくや。報告とかは全部ワシの仕事になっとるで」

 不満の対象はいつの間にか変わっていた。

*     *     *

 半ば日課となっているリサイタルを終え、エリザティカ・レンコップ――愛称エリカは宿への帰路を急いでいた。
 小さな竪琴を抱え、プラチナブロンドをなびかせながら走る姿は人々の好奇の視線を誘うが、そのようなものを気にする彼女ではない。
 そんな彼女が足の速度を緩めたのは全力疾走に疲れただけで、決して見知った姿が目に入ったからではない。

 リューンの街を走り回るジョナサンを見るのは、別にこれが初めてではない。
 朝、適当に出かけて軽く歌い、それから帰る。
 その道すがら走り込むジョナサンを見かける、もしくは声をかけられて共に帰る、というのはエリカの日常でもあった。
 場合によっては若い女性に声をかけるジョナサンを竪琴で殴りつけて、無理やり引きずって帰るということもある……。

 どうやら今日のジョナサンはまっすぐ宿に帰るつもりらしい。
 道行く人々を避けながら疾走するということは、ナンパをしている暇は無いのと同義だからだ。
 これで彼がナンパに走っているようであればとりあえず一撃を入れるつもりであったが……。

 呼吸を整えながらエリカは足を進める。
 昨日の夜、依頼が入ったという話を聞いたのだ。
 依頼――冒険者にとっての仕事があるということは、それはすなわち自分たちの出番ということ。
 であれば、余計な時間は使っていられない。

 そうしていると他の見知った顔が見えた。
 同じ宿に所属するハーフエルフの魔術師と盗賊だ。

「エリオット、ガルディス、おはようございます」

 同じパーティの一員として活動するハーフエルフたちに、エリカは丁寧だった。

「おはよう、エリカ」
「お、おはようさん。さっきまで歌ってたんか?」
「ええ」

 半妖精と妖精族が連れ立って歩く。
 冒険者が多く存在する交易都市リューンならではの光景だ。

「その様子やと特に何も無かったみたいやな」
「……無かったと言えば無かったような、あったと言えばあったような」
「な、何があったんや?」
「いえ、ちょっとファンクラブに囲まれてなかなか脱出できなかっただけです」
「人気者やからな、エリカは」

 ファンの子供たちに囲まれて困惑する光景を想像し、ガルディスは笑った。

「しかし包囲網から脱出できても、今度は出待ちのファンが現れるのではないか?」

 星屑の夜空亭の前にエリカのファンが大勢集まっている光景を想像したエリオットの顔に冷や汗が流れるが、エリカはその心配は無いと笑う。

「冒険者の仕事があるからと言っておきましたので、さすがにそれを邪魔しに来る子はいないと思いますよ」
「いやいや、それやったら『エリカに危ない事はさせない』とか言うて押し寄せてきたりとかあるんちゃう?」
「さすがにそうなったら、少しばかり『お仕置き』せざるを得ないですね」

 温厚なエリカは怒ると怖い、というのはファンクラブの間では周知の事実である。
 それを理解したハーフエルフ2人は今度こそ納得したのだった。

*     *     *

「ただいま~!」

 星屑の夜空亭に走り込みから帰ってきたジョナサンの声が響いた。
 宿の1階を見渡せば盗賊ギルドの仕事に行っていたらしいローズマリー、宿を出る前には姿を見なかったナオミ、そして先程まで奥の部屋で寝ていたらしい宿の亭主ジョッシュの姿があった。

「おう、お帰りジョナサン」
「ただいま親父さん。朝ごはんある?」
「今カレンが奥で作ってるよ」
「お、カレンちゃんの手作り!? カレンちゃんの料理おいしいんだよね~」
「その言い方だとわしの料理はまずいという風に聞こえるんだが?」
「やだなぁ、親父さんの料理もおいしいに決まってるじゃない」

 ジョナサンに限った話ではないが、星屑の夜空亭ではジョッシュの事を名前で呼ぶ者はいない。
 誰もが親しみを込めて「親父さん」等と呼ぶのだ。
 一方でカレンの事は誰もが名前で呼んでいたが……。

「でも親父さんの料理よりもカレンの料理の方が嬉しいんじゃないの?」
「そりゃもう! 女の子の手料理なんて世の男どものロマンだもんね!」

 先に朝食を済ませていたローズマリーが茶化すように言うが、そもそも女好きであることを公言してはばからないジョナサンには大して効果は無かった。

「ということは私やローズマリーの料理でも大丈夫、ということで?」
「よっぽどまずい、とかじゃなきゃもちろんね。……っていうかナオミ、俺に料理作ってくれるの?」
「まさか。戦場(いくさば)に生きる私がそんな酔狂なことをするとでも?」
「ですよね~。野宿とかならともかくね~」

 17歳のジョナサンにとって18歳のナオミは彼のストライクゾーンに該当するのだが、当のナオミの方はそもそも恋愛に興味が無いのかジョナサンに対してかなり辛辣だった。

「ただいま~。戻って来たで~!」

 そのような会話を繰り広げていると、先程ジョナサンが追い抜いたエリオット、そこに後から合流したガルディスとエリカが宿に入ってきた。

「おうお帰り、お前さんたち」
「皆さんお帰りなさい! 朝ごはん出来てるわよ」

 厨房からカレンが顔を出す。
 ワースハンターズの6人が揃ったのを確認して、先にナオミとローズマリーに出していたものと同じ朝食を提供する。

「後、ジョニィさんにはリクエストの紅茶もあるわよ。食後でいいわよね?」
「心の栄養と健康のために食後に1杯の紅茶、ってね」

 などとのたまいながら、カレンの手作り朝食にジョナサンが手を伸ばす。
 紅茶に明確な健康増進の効果があるのかは定かではないのだがジョナサンは毎回こう言うのだ。

「さてお前さんたち、食いながらでいいから聞いてくれ」

 ナオミとローズマリー以外の4人が食事を開始したあたりで宿の亭主がそう切り出す。

「昨日の夕方に入ってきた依頼がある。ぜひとも受けてもらいたいんだが、頼めるか?」

 その言葉に彼らは、依頼の詳しい内容の確認を求めた。

 ワースハンターズの物語が、今、始まる……。

PC6・エリカ←Prev

Next→→ゴブリンの洞窟



 というわけでPC及びパーティ名の紹介でした。
 これからシナリオをプレイするとともにリプレイもちょくちょく書かせていただきたいと思います。
 どうぞよろしくお願いいたします。

 ワースハンターズは聖職者がおらず、盗賊が2人で、万能型多め、ついでに「_不心得者」ばかりのパーティです。
 これはつまり「回復役に欠ける」ということを意味します。
 回復は基本的にエリカの精霊術頼りですね。
 他に神聖技能以外で回復が可能なスキルやアイテムを入手できればいいんですが、その辺は追々探すことにします。

 PC紹介の時点でお気づきでしょうが、ワースハンターズは「すでに結成していて、すでに冒険者として依頼を受けたことがある」状態からリプレイが始まっています。
 ただし、実際のプレイでは「PC作成したてのレベル1」の状態から始めます。
 途中でプレイするシナリオがいわゆる「過去編」になるということですね。
 ……パーティ結成時の話はどうしたって?
 それはまた、追々、ね?
 あとはまあ勘のいい方であれば「所属する冒険者が出ていくことになった大事件」が何のシナリオか、お分かりになるかな、と。
 それもプレイする予定です。

 ところでパーティ名のワースハンターズですが、実はこれ「Wirth Hunters」と書きます。
「自身にとって最も価値あるものを追い求める者たち」という意味にしてはおかしいって?
 はい、スペルミスです。
 なぜこんなことになったのかは……、これもいつか語りますのでその時までのお楽しみということで。

PC6・エリカ←Prev

Next→ゴブリンの洞窟
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

全記事表示リンク

本文内検索

来訪冒険者数

プロフィール

GM屋

Author:GM屋
しがないカードワースのリプレイ書き。とある所でTRPGのプレイヤー&ゲームマスターもしております。
画像が無いのはご勘弁。

当ブログは基本リンクフリーですが、事後報告でも構いませんのでできれば一報いただければと思います。またその際は相互リンクもさせていただければと思います。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR