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家宝の鎧

 冒険者と呼ばれる連中のそれぞれの生い立ちや経歴は様々である。
 貧乏な村に生まれ口減らしのために、あるいは自ら村を出て食べていくためになった者。
 名のある貴族や王族の出だったが落ちぶれてしまい、行く当ても帰る場所も無くなってしまった者。
 自身の目的を果たすのに冒険者という立場がちょうど良いと思う者。
 特にこれといって特長らしいものは無いがわずかな可能性に賭け一獲千金や大出世を狙う者。
 冒険者になるしかなかった者もいれば、自ら冒険者になりたがる者もいる。
 いずれにせよ共通しているのは、正規の役職に就けなかった者であることだ。
 大手を振って自慢できる何かに就けるほどの者が、社会の最底辺に属するチンピラ、ゴロツキまがいの冒険者になりたがる訳は無かった。
 もしいるとすれば、やはり何かしら問題のある人物ということだ。
 無論、本人にその自覚は無いだろうが……。

 冒険者の宿に持ち込まれる依頼は多岐にわたる。
 妖魔退治、動物の捕獲、植物の採集、遺失物や行方不明者の捜索、要人の護衛、あるいは、……殺人。
 冒険者の依頼は原則として冒険者の宿の経営者が事前に調査を行い、依頼主や内容が信頼に値するかを見極める。
 その後、実際に依頼を受諾する冒険者に仲介が行われる。
 経営者の方で裏が取れなかった場合は冒険者自身がそれを行うこともある。
 時と場合によっては、経営者を仲介せず冒険者自身が依頼を受けてしまうこともある。
 もちろんこの場合は宿の仲介が無いために、宿の方に仲介料が発生しないので、経営者としては可能な限り避けたい案件であるが。

 冒険者とは社会の最底辺の存在だ。
 普通なら社会によって駆逐されてしかるべき汚物そのものとして扱われるのだが、そんな汚物に依頼を持ち込む者がいる。
 それは農民であったり、街の一般市民であったり、何かしらの職に就いた職人の類であったり、自警団や治安隊のような組織であったり、はたまた名のある貴族や王族からであったり……。

 星屑の夜空亭も例外ではなく、取り潰しの憂き目に遭いかける以前なら、それなりに売れている冒険者を求めて、様々な立場の者から多くの依頼が入ってきたものだ。
 だが今はかつての栄光も空しく、依頼らしい依頼が入ってこない。
 今でこそ所属する冒険者たちのおかげで取り潰し手前のところで踏みとどまっていたが、これもいつまで続くやらわかったものではなかった。

 前回の妖魔退治から2週間ほど経った頃、そんな星屑の夜空亭に新たな依頼が舞い込んできた。

「求む、勇敢なる戦士。私用にて人手を必要としている。怪物との戦闘が予想されるため、勇気ある戦士を募集する」

 内容の下方、依頼主の欄には「リヒャルト・フォン・リンツ」という名前が書かれていた。

「亭主、この依頼書だが……」

 先日の依頼で手に入れた賢者の杖を手に、エリオットが壁に張られた依頼書を確認する。

 先日の主にゴブリンを対象とした妖魔退治において報酬として提示されたのは銀貨600枚だったが、それとは別におそらくゴブリンが溜め込んでいたのだろう銀貨200枚と賢者の杖という魔術発動体が見つかった。
 後日、依頼主の農民たちに確認したところやはりこの両者は農家の持ち物ではないことが判明したため、そのまま冒険者――ワースハンターズの収入ないし所有物として扱われることとなった。
 銀貨の臨時収入はもとより、彼らが喜んだのは杖の方だった。
 術者の集中と魔術の構成を補佐する魔術が組み込まれたこの杖は、魔術師であるエリオットにとって強力な武器となる。
 魔術師学連に所属していながら杖の1つも持とうとしなかったエリオットだが、さすがにその態度を改めたのか、今の彼は大人しく杖をその細い指の中に収めていた。
 その代わり、それまで使っていた武器の弓矢は彼の部屋に放置されていたが……。

「ああ、その依頼な。リヒャルト・フォン・リンツというのは王国騎士団に所属する騎士さんだ。なんでも、長く使っていなかった山荘の大掃除を手伝ってほしいとか何とか……」
「大掃除ぃ~?」

 近くのテーブルでエリカとチェスに興じていたローズマリーが前回と同じく不満げな声を上げる。
 自分たちは冒険者であって掃除屋ではないと言いたいのだろう。

「掃除というが、依頼書には『怪物との戦闘が予想される』と書いてあるぞ」
「えっ、そうなの? エリカ、確認してきたら?」
「その間にこっそり駒を動かすつもりでしょ、乗らないからね?」
「チッ……」

 依頼書の方に見向きもしないエリカに舌打ちを返し、ローズマリーが依頼の再確認を求める。
 チェスは圧倒的にエリカが優勢だった……。

「依頼書には戦闘を想定した戦士を、だが亭主からは大掃除という単語が聞こえた。大掃除という名の怪物退治というのが妥当な線だろうが……」
「わしもそこを確認しようと思ったんだが、どうも先方は焦っているようでな。うまく確認できなかったんだ」
「亭主が確認できないほどに焦っていた?」
「とにもかくにも受けてくれる冒険者を、ということだったから……。わしが説明するより、本人に直接聞いた方がいいだろう」
「どう思う、ジョナサン?」

 カウンターテーブルでのんびりと紅茶を楽しんでいるジョナサンに問いかける。

「相手が騎士団の騎士さん、っていうのがなぁ……」
「嫌なのか?」
「いやまあ騎士だからダメ、っていうわけじゃないんだけどね。ただほら、騎士とか貴族とかって作法にはうるさいでしょ、そういうのがどうもね?」
「冒険者に依頼するくらいだから、その辺りは特に考えなくともよさそうだが……」
「そんなわけないでしょう」

 魔術師とリーダーの会話に割って入ったのは軍人の女だった。

「貴族というものは悪意と傲慢が人の形をしたものです。自らの地位や権威を見せつけたいがために冒険者に依頼を持ち込むということも考えられます。冒険者とは所詮チンピラやゴロツキと同程度の存在。そういった存在を嘲笑いたいために、わざわざ依頼してくるんです。私たちはストレス解消の玩具(おもちゃ)としか思っていませんよ」
「……お前さん、かなり貴族に偏見を持ってるな」
「事実ですから」

 ナオミは北国の出身で、その国はいわゆる貴族社会だ。
 その貴族から財産と両親を不当に奪われたナオミにしてみれば、地位と権力のある騎士や貴族といった存在は憎むべき敵になるのだ。
 そのような事情を知っているからこそ、亭主は苦笑いを浮かべるだけに留めた。

「まあナオミの気持ちはわからんでもないが、今回はそういった心配は無用なんじゃないか?」
「と言いますと?」
「リヒャルト・フォン・リンツという名前をわしの方でも調べてみたんだがな、どうやらその人は王国騎士団でも下級騎士だそうだ。お前さんが嫌う爵位を持った上位の貴族とはまた違う存在というわけさ」

 リヒャルト・フォン・リンツ、44歳。
 王国騎士団に所属する下級騎士で、勇敢ではあるが冷静さに欠け、騎士の例に漏れず非常にプライドが高い男。
 亭主が仕入れた騎士に関する情報がこうだった。貴族というものは非常にプライドが高く、自分より下位の者を蔑む傾向が強い。
 だがそんな貴族でも下位の者はむしろ蔑まれる立場にあるから、そういった者なら冒険者に偏見を持つ事は無いはずだ、というのが亭主の言だ。

「まあ実際に話を聞いてみて、それで気に入らなければ断ればいいさ。今回はまだ仲介料を貰ってないから、断ったところでこっちの損失は無いに等しい。騎士さんの家まではここからそれほど遠くないし、行ってみたらどうだ?」

 その言葉が決め手となり、ワースハンターズの面々は騎士の家へと向かう事となった。
 ただ、ナオミは嫌そうな顔を必死に隠そうと努力していた……。

*     *     *

 件の騎士が住むというマタタビ通り7丁目といえば、星屑の夜空亭から歩いて10分とかからない場所である。
 目玉となる冒険者がいない星屑の夜空亭に、いくら下級とはいえ騎士からの依頼が来るというのは少々気になるところだったが、徒歩でさほど時間のかからない場所からとなれば、前回の妖魔退治と同じく「手近な冒険者の宿にとりあえず依頼を出した」程度のものでしかないのだろう。

 目的の住所にたどり着き、エリカが扉を叩く。
 交渉する相手によっては別の者が担当するが、基本的には彼女が交渉を担当することになっていた。
 交渉担当がエルフというのは、特に人間の貴族などに悪印象を持たれそうなものだが、ワースハンターズの中でまともに――というか丁寧に交渉ができそうな者はいないも同然だったので、自然とエリカが交渉を務めるようになったのだ。
 そのために彼女は、普段はそうでもないが交渉相手により自身の長い耳を隠すためにバンダナを頭に巻くようにしていた。
 プラチナの長髪である程度は耳を隠すことはできるが、念には念を入れて、である。

「どなたじゃな?」

 扉から現れたのは灰色の髪に同じ色の口ひげを蓄えた中年の男だった。
 騎士と呼ぶには服装が一般市民のそれに近いが、この男が依頼主だろうか。

「私たちは、星屑の夜空亭からやって参りました冒険者です。依頼書を拝見して……」
「おぉ、あんたらが。わしが依頼人のリヒャルトじゃ」

 どうやら目の前の男性は依頼主だったようだ。
 一見、騎士のようには思えないが、さすがに四六時中、騎士らしくしているわけにもいかないのだろう。

「じゃ、早速じゃが仕事の話をさせてもらおう」

 リヒャルトに家の中に入るよう促された冒険者たちは、そのまま居間らしき部屋に通された。
 交渉役のエリカを対面に座らせ、彼女の隣にはナオミとエリオットが控える。
 残りのメンバーは3人の後ろで待機する形だ。

 リヒャルト・フォン・リンツの話では、彼は北の山に亡くなった祖父から譲り受けた山荘を持っており、そこを人を雇って管理させていたという。
 王宮勤めの身では直接足を運ぶこともままならないからだ。

「ところが最近、その山荘にわしの留守を良いことに、下等な妖魔どもが棲みついてしまったらしいんじゃ」
「妖魔、ですか……」
「まったく、管理人の職務怠慢としか言い様が無いが、今さら言ってもしょうがあるまい」

 そこで近く妖魔退治を行うと決めたのだが、彼1人では戦力としては心許ない。
 下級騎士であるが彼には部下がおり、その部下を妖魔退治に駆り出すことも考えはしたが、私物の山荘の妖魔退治――要は私用であるがゆえにそれは不可能である。

「そこであんたら冒険者を雇おうと思ったわけじゃよ」
「なるほど。大掃除と聞きましたが戦士が必要というのは、そういう事だったのですね」

 宿でエリオットが想像した通り、今回の依頼は「大掃除という名の妖魔退治」であったようだ。
 それならば文句は無いとばかりに後ろで待機しているローズマリーは微笑んだ。

「報酬として銀貨800枚を用意しておる。どうじゃろう、引き受けてもらえるかな?」
「その前に確認なんですが……」

 結論を出す前にエリカが詳細の確認を求める。

「下等な妖魔ということですが、具体的にはどのような妖魔でしたか?」
「ふむ、管理人の話では豚のような顔をした人型の魔物、とのことじゃったな」
「……オークか」

 オーク。
 妖魔の中でも鬼族と呼ばれる類のもので、その中でも下級。人間の成人男性ほどの体格を持ち、山荘の管理人が言った通りの醜い豚面をしていることで有名だ。
 オークというものは不器用で鈍重な上、頭も悪いときているが、生命力と腕力は並の妖魔と比べても特筆すべきものがある。
 欲望に忠実で自制心が存在しない故に、普段は無人同然の山荘を格好の棲み処と選んだのだろう。

「集団で襲い掛かられるとさすがにまずいが、規模によっては我々でも十分対処は可能だろう」
「正確に数えたわけではないが、棲みついたのは10にも満たんそうじゃ」

 エリオットの言葉にリヒャルトはそう答えた。
 10に満たない数ということであれば、小集団を各個撃破すればどうとでもなる。
 エリカだけでなく、その場にいる全員が同じ案を考えていた。

「ところで……、その管理人の方は今はどちらに……?」

 その疑問はエリカだけでなく誰もが思っていたものだった。
 山荘の管理をしていた者からも詳しい話を聞ければという思いから発した質問だが、質問を受けたリヒャルトは苛立ちを隠さずに顔を歪めた。

「……とっくにクビにしたわい」
「まあ、当然といえば当然ですね。誰だってそうします」
「わしも、そうする」

 ナオミの言葉に我が意を得たりとばかりにリヒャルトは頷く。
 管理人から詳しい話を聞き出すことは叶わなくなったが、戦うべき敵の正体とその規模がわかっただけでも十分だろう。

 依頼を受諾したワースハンターズは、一旦宿へと引き返すこととなった。
 リヒャルトの方にも準備があるということで本日は山荘へと向かわず、翌日の正午に出発ということになったのだ。

*     *     *

 リヒャルトとの仕事の打ち合わせから、翌日、正午。
 ワースハンターズの面々は待ち合わせ数分前にリヒャルトの邸宅前にやって来ていた。
 貴族が相手ならば実際の待ち合わせ時間よりも少々早く着いている方がいいと宿の亭主に言われたからである。
 ナオミだけは時間きっかりに着くようにしようとうるさかったが……。

「おはようございます」
「おはよう。……うむ、みんな揃っとるな。近頃の若者にしてはなかなかに礼儀正しいのう」

 先日と同じくエリカが前面に立ちリヒャルトと相対する。
 先日と違うのは、リヒャルトが一般的な洋服姿ではなく、鎧を身に着け剣を腰に差しているところだ。
 なるほど、これが騎士としてのリヒャルト・フォン・リンツの姿であるらしい。

「冒険者とはいえ、さすがに仕事で遅刻するというのは許されることではありませんので」
「ふむ、そうじゃな。では、参るとしよう!」

 リヒャルトの号令の下、冒険者たちは件の山荘へと向かう。
 問題の山荘がある北の山はリューンから歩いて1時間ほどの距離にあり、そこは特に人が立ち寄らない場所というわけではない。
 とはいえ、目立った特徴があるわけでもなく、山菜や果物を採りに農家が訪れたり、あるいはリヒャルトのように奥まった場所に山荘を建てて別荘とする者がたまにいるくらいである。

 山を登ることおよそ20分、問題の山荘に到着したところでリヒャルトが口を開いた。

「こほん……。作戦遂行にあたり、まず諸君らに言っておかねばならん事がある。心して聞いてほしい」
「……はい?」

 依頼についての打ち合わせはすでに済んだはずだ、これ以上何を言う事があるのだろうか。
 雇われた冒険者全員に疑念が湧いたが、それに気づかずリヒャルトは続ける。

「屋敷に巣食っておるのは卑劣極まりない妖魔どもじゃ。戦うとなれば建物を傷つけてしまう事もあるじゃろう。それはそれで一向に構わんが……」
「構わへんのかい……」

 思わず漏れたガルディスの呟きを無視し、リヒャルトは続けた。

「ただし……、ただしじゃ。2階に安置されている鎧だけは間違いなく回収してほしい」
「……鎧?」
「左様、鎧じゃ」

 それはここに来て初めて聞く単語だった。

 聞くところによると、リヒャルトの祖父は非常に高名な騎士で――かく言うリヒャルトも騎士道一筋20年の男なのだが――その祖父が先代の国王より鎧を下賜されたのだという。
 厚手の金属板を多用した非常に重いが並外れた防御力を有する、由緒正しい逸品。
 リヒャルトの祖父は騎士を辞するその時までその鎧を愛用し続けたという。
 孫にとっては命よりも大切な家宝の鎧というわけだ。
 その高い防御力がゆえにそうそう壊れることは無いだろうが、万が一が起きる前にその鎧は回収せねばならないのだという。

「依頼の打ち合わせの際に鎧の話は出ませんでしたが、なぜ今この時になってそのような話を?」
「……すまん。依頼を出す際もそうじゃったが、焦っていたものですっかり話すのを忘れておったのじゃ」

 ナオミの険を含んだ声に、さしものリヒャルトも謝罪せざるを得なかった。
 その代わりというわけではないが、山荘の中にある物でリヒャルトとは無関係の物であれば報酬の足しにしてもいいという約束は取り付けられた。
 もっとも、基本的に何も置いていない山荘であるため、冒険者の役に立ちそうなものがあるとは考えにくいが……。

「建物が傷ついてもいいとのことですが、例えば妖魔を殲滅するために建物を外から完全に破壊するというのは?」
「……いや、それは、できれば常識の範囲内で対処を頼みたい」

 エリカのあまりにも過激な提案はリヒャルトの冷や汗と共に却下された。
 もっとも、エリカとしても本当にそのような作戦を実行するつもりは無かったのだが。

「ま、まあ妖魔どもを殲滅し、鎧を回収できればそれでよい。話は以上じゃ」

 その言葉でワースハンターズは山荘への進入を決定した。

 山荘自体は騎士の所有物という割にさほど大きくはなく、どちらかといえば少しばかり大きめの一軒家といったところだ。
 長物の武器を振るうには少しばかり狭いといったところだろう。

「前回の洞窟もそうですが、これだけ狭所での戦いが続くとなれば武器を改めるべきなのでしょうかね」

「それを言うなら俺もだよ。一応、素手で戦うこともできるけどさぁ」

 ワースハンターズの6人の中で特に長い武器を扱うのがナオミとジョナサンだ。
 ナオミの武器は全長1.5メートルの大太刀で、ジョナサンは自身の身長ほどの長さの棍である。
 どちらも前面に突き出して攻撃することは可能だが、やはり遠心力を利用して大きく振り回すことで威力を発揮できる武器である以上、狭い場所で扱うには非常に不向きである。
 仮に愛用の武器を封じられたとしても戦う術が無いわけではないが、主に打撃を多用するジョナサンと違い、軍人畑のナオミは関節技や投げ技の方が実は得意――すなわち対人戦を想定した格闘しか知らないためどうしても妖魔とは戦いにくいのだ。
 スライム等の不定形の魔物が相手ならなおさらである。
 今回戦うことになるオークは骨格を含めた肉体構造が人間とほぼ同じであるため、格闘攻撃が通じないという心配は無かったが、それを抜きにしても狭い場所での戦闘を想定した武器や技の用意は今後必要になるだろうと考えていた。

「何だかんだで私たちも課題は多いですね」
「だね。まあそれもこの依頼が終わったらゆっくり考えようか」

 そう、何はなくとも今はこの依頼をいかにして達成するか、である。
 洞窟の時と同じくナオミは刀を抜いた状態で、ジョナサンは棍を手に山荘の探索を進めた。

 玄関ホールには左右に扉があり、左は書斎と2階への階段があり、右は食堂に繋がっているという。
 今回の目的は妖魔の殲滅と家宝の鎧の確保である。
 鎧の確保は優先事項であるが、どこに妖魔が潜んでいるかわからない以上は山荘内全てを探索する必要があった。
 そこで一行はまず食堂へと向かうことにした。
 食堂には当然食料がある。
 妖魔が食料の確保としてそこにたむろしている可能性があるからだ。

「なんじゃ、あの箱は? 怪物たちのもんかの?」

 食堂に妖魔の姿は無かった。
 食料を食い荒らされている可能性が無いことに安堵した一行だったが、食堂のテーブルの上に置かれた金属製の箱の存在が彼らを別な意味で悩ませることとなった。

「前の管理人の持ち物ゆう可能性は?」
「それだったら管理人さんが逃げ出す時に持って帰ってるんじゃない?」
「それもそぉか」

 言いながら盗賊2人がその箱を改める。
 その金属製の箱には毒針の罠が仕掛けられていた。
 不用意に鍵を外すと毒針が飛び出す仕掛けになっているという。
 山荘の管理人が自身の所有物にわざわざそのような罠を仕掛けるとは思えない。
 つまりこの箱は必然的に妖魔の持ち物ということになる。

「まぁ、この程度の罠やったらワシにかかれば……」

 ほどなくしてガルディスの手によって毒針は外され、鉄の箱はその中身を暴かれた。
 箱の中にはガラスの瓶が3つ入っており、中身は無いように見える……。

「空のガラス瓶? なんでそんなものを罠を仕掛けてまで大事そうに保管しとくのよ?」

 顔に疑惑の色を浮かべながらローズマリーが瓶を取り上げる。
 何かしらの粉や液体が入っているのかと思ったが、どうやら本当に何も入っていないようだ。

「ん……?」

 瓶を眺めていたローズマリーが異変に気付く。
 中身の無いと思っていたそれには注視しなければよくわからないほどに小さな何かが入っていた。
 そしてそれは同じく瓶を改めていたリヒャルトも気づくこととなる。

「なんじゃ、その瓶は。なんか黒い小さなもんがたくさん入っとるぞ? ほれ、動いた!」
「……ちょ、これって……!」

 瓶の中に入っていたのは、数えきれないほどの大量のノミだった。
 3つの瓶それぞれに同じ数の大量のノミが詰まっていたのだ。

「の、ノミぃ~!?」
「毒針の罠まで仕掛けておいて保管していたのが、ノミだと!?」
「そ、そんなもの大切にとっておいて何に使うつもりだったの!?」

 あまりにも信じられない展開に冒険者たちは騒然とする。
 先日のゴブリンがいた洞窟にもガラクタの類が集められていたが、それと比べてもこのガラス瓶の存在は衝撃的に過ぎた。

 結局このガラス瓶はローズマリーが持つこととなった。
 どう考えてもゴミ同然のそれだが「ドッキリには使えるかも」とのことでひとまず持っておくつもりらしい……。

 残る扉の向こう――書斎にて一行は再び捜索を開始した。
 書斎に足を踏み入れた際に3体のオークに襲われたが、所詮は下級鬼族、それなりに戦闘経験を有した7人の敵ではなく、一行は無傷で豚の妖魔どもを倒すことに成功した。
 その勝因は何と言ってもエリオットの目覚ましい活躍である。
 彼の眠りの雲が炸裂したからこそ、豚の化け物を傷1つ負わずに圧倒できたのだ。

「やはりこの手の道具は馬鹿にはできないな。これがあるだけで魔術の扱いが変わってくる」
「だったらなんで今まで杖とか持たなかったの?」

 エリオットは魔術師だが、彼は今の今まで賢者の杖のような魔術発動体を持とうとしていなかった。
 魔術師にとって杖というのは非常に大きな意味を持つのだが、エリオットは、

「あんな長ったらしい物、誰が持つか」

 としか言わず、常に素手のまま今日まで来たのである。
 先程のジョナサンの質問にも同じ答えを返したが、賢者の杖の有用性は認めているらしく、手放そうとはしなかった。

 その書斎にてガルディスが本棚の1つを熱心に漁っている。
 書斎にはリヒャルトの祖父が集めたのであろう騎士道に関する自己啓発本や戦術論、戦略論の類が並んでいる。
 いかにも騎士道一筋の男が読みそうな本で埋め尽くされた中において、盗賊の勘というものだろうか、ガルディスはそこに違和感を覚えたのだ。

「おっ、ええもん見つけたんとちゃうか?」

 そんな彼が本棚から1冊の書物を引き抜いた。
 他の書物と違いその本は表紙からして魔術の色が濃い。
 魔術の理論や扱いが書かれた見た目通りのそれは、およそ騎士道精神に満たされた者の持ち物とは思えなかったが、リヒャルトによれば、その魔術書はおそらく祖父の持ち物だという。
 なんでも晩年のリヒャルトの祖父は魔法や魔術の類に凝っていたらしく、ガルディスが引き抜いた本はその研究成果かもしれないそうだ。
 リヒャルトの許しを得て手に入れた魔術書は間違いなくエリオットの所有物となるだろう。

「その魔術、今すぐ使うことできるんか?」
「いや、さすがに無理だな。理論の理解と解析には時間がかかる。宿に持ち帰って読み進めない事にはどうにもならん」

 手に入れた魔術書をひとまず荷物袋にしまい込み、一行は再び捜索を開始した。

*     *     *

 書斎の奥には2階への階段と通路があるだけで特に目を引くようなものは無い。
 あるとすれば山荘内をうろつくオーク程度か。
 通路の途中でオークの群れに出会ったが、これも無傷で退けることに成功した。
 道中での戦闘である程度は消耗するものだと覚悟はしていたが、2階最奥の部屋に到達するまで一切の傷を負わずに済んだのは実に幸運だった。

「さて、残ったのはこの部屋だけかな」

 2階最奥の部屋――山荘の寝室はそれまでの部屋と違い両開きの扉が備えられている。
 書斎や通路で倒したオークで全勢力でないとすれば、おそらくこの部屋に残りのオークが潜んでいるのだろう。
 そして、リヒャルトが山荘前で言っていた家宝の鎧も……。

 意を決してジョナサンは両開きの扉を大きく開け放つ。
 そこには予想通りというか、オークの一団がいた。
 部屋にいたのは5体のオークだが、真ん中にいる1体は他のオークに比べて一回りも体格が大きく、しかも質の悪そうな服や皮鎧を着たオークと違い上等な金属鎧を着こんでおり非常に目立っている。

「前回はシャーマンときて、今回はロード種か。面倒な……!」

 苦々しくエリオットがこぼす。
 大規模なオークの群れにはそれを統率するリーダーが存在し、その役目を担うのは主にオークロードである。
 オークの亜種であり体格は並のオークと比べて大きく、その分膂力にも富む。
 オークに限らず、他の妖魔にも言えることなのだが、ロード種のような特別な存在に率いられる妖魔は単独で活動するよりも遥かに勇敢であり、恐るべき敵となるのだ。

 ロード種がいるからといって、妖魔退治を引き受けた以上、彼らとしては退くわけにはいかない。
 何よりも同行するリヒャルトがそれを許さないだろう。

 だがそのリヒャルトの様子がおかしい。
 部屋に飛び込んでからというもの、どこか一点を見つめながら顔を青くしたり赤くしたりしている。
 それどころか体もかすかに震えているようだ。
 どうやらその視線はオークロードに向けられているようだが、リヒャルトの様子は卑劣な妖魔の親玉を許せない騎士のそれというよりは、もっと別の何かが感じられた。
 一方、注視されているオークロードも訳が分からぬといった様子で目を丸くしている。

「ぶひひっ?」
「ぶ、ぶ、ぶぶぶ……」
「おっちゃん、どないしたんや?」

 あまりにも奇妙なその光景に、ついガルディスが口を挟んでしまう。
 すると、それをきっかけにしたのか、リヒャルトは部屋どころか山荘全体に響き渡るような大声を発した。

「豚が爺様の鎧を着とるッ!!」
「は!?」

 その言葉でワースハンターズの面々は改めてオークロードに注目する。
 オークロードが着込んでいる上等な金属鎧は、どうやらリヒャルトが求めていた祖父の遺品である家宝の鎧であるらしい。
 ある程度の知能を持った妖魔は人間や亜人種と同じく服や鎧を着る習慣がある。
 とはいえ、自らそれらを作り出す文化は無く、専ら他の種族からの分捕り品であり、しかもまともな整備を行わないため大抵は非常に劣化している。
 そのため、楽に手に入り、しかも上質なものであれば優先的にそれを手に入れようとする傾向がある。
 しかしだからといって、まさか家宝にしている鎧に手を出すとは!

 当然、リヒャルトの怒りたるや凄まじい。
 目の前に現実を突きつけられた彼に、もはや理性ある行動を期待するのは無理だった。

「おのれ、この豚野郎め!」

 その言葉を皮切りに、オークの集団との戦闘が始まった。

「ち、ちょっとリンツ卿!?」

 ナオミの制止しようとする声も届かず、騎士道一筋20年の男リヒャルト・フォン・リンツは豚野郎に奪われた家宝の鎧を奪還すべく単騎突入を図る。
 これで彼らから戦略的撤退の文字は無くなった。

「豚野郎、爺様の鎧を脱げっ!」
「ぶひひんっ!?」
「脱げっつーに、この腐れ豚っ!」
「ぶひひん、ぶひひんっ!」

 オークロードに対し鬼のような形相で剣を振り回すリヒャルト。
 突然やって来た人間に襲われながらも必死で抵抗するオークロード。
 そのオークロードを守るべく人間に襲い掛かり、逆にその人間に吹き飛ばされるオーク。
 もはやどちらが悪でどちらが正義かわからない。
 いや、無論オークの方が悪なのだろうが……。

「ああもう、まさかこんなことになるなんて……」
「言ってる場合じゃないわ! アタシたちも行くわよ!」

 頭を抱えるナオミを叱咤しながら、ローズマリーも戦闘に参加する。
 その言葉に続き残りのメンバーも戦列に加わった。

 だが状況は非常に悪い。
 リヒャルトの突撃のせいで場が混乱し、敵味方入り乱れての乱戦となったのだ。
 しかも相手はロード種に率いられた精鋭。
 これまで無傷だった冒険者たちも被害を免れることはできなかった。

 唯一の例外は1人だけ後ろに下がっていたエリオットだった。
 手にした賢者の杖で集中力を高め、身体を流れる魔力を練り上げ、対象を視線で認識し、発動に必要な呪文を唱えながら、指先を向けて準備を完了させる。

「全てを貫く魔法の矢よ、その牙の洗礼を彼の者に与えよ」

 狙うはオークの1体。
 対象を視認することさえできれば、たとえ乱戦になっても確実に命中させられる。

「貫け、魔法の矢!」

 最後に発動用の呪文を唱え、エリオットの指先からエネルギーの塊が1本の矢となって発射される。
 リューンは賢者の塔にて教えられる魔術師護身用の攻撃魔術、魔法の矢だ。
 魔術師になりたての者でも手軽に扱える基礎的な魔術だが、その割に非常に威力が高く、しかも対象を狙えるのであれば絶対に命中させられる高い性能を誇っていた。
 放たれた矢はオークの首を貫通し、気管と血管をまとめて潰された豚もどきは血を噴き出しながら絶命した。

 しかしオークの1体を倒せても状況はあまり変わらない。
 部屋の中での乱戦であるがゆえに距離を取って動けない両者は、互いに殴り殴られていた。
 オークから手痛い一撃を受けたローズマリーは、隙をついたエリカから水の治療を受け全快したものの普段の速度重視の戦いができずにいたし、長い得物を持つジョナサンやナオミも思い切った攻撃ができずにいた。
 その上、集団を率いるオークロードはリンツ家の家宝の鎧で身を守られており、リヒャルトがいくら攻撃してもその身を傷つけることができない。
 なるほど、確かにその防御性能は家宝にされるだけあって非常に高いようだ。

「こ、この……。ぜぇ、ぜぇ……」
「ぶひっ、ぶひっ……」

 剣をぶつけあっているリヒャルトとオークロードだが、攻撃はいずれも決定打とならず、両者とも疲労の色を濃くしていた。

「あの鎧が特に邪魔だな。魔法の矢でもおそらくは撃ち抜けないぞ」
「あの鎧を脱がせることができればいいんですが……」

 エリオットの魔法の矢は確かに必中の魔術だが、それはあくまでも「狙った対象に追尾して当たる」だけであり、「狙った箇所に正確に当てられる」ものではない。
 命中「率」は高いが、命中「精度」は無いに等しいのだ。
 実はエリオットは狙おうと思えば鎧に覆われていない頭部のみを狙って命中させることができるのだが、この時の本人はその事実を知らなかった。

 すなわち、この状況を有利に進めるためにはオークロードから家宝の鎧を奪い取るしかない。
 そのためにはおそらく正攻法では無理だろう。
 鎧を剥ぎ取ろうとすると間違いなく抵抗される。
 オークロードが自分から鎧を脱ぎたくなるような何かがあればいいのだが……。

「まったく、ノミを集めて大事に取っとくわ、人様の鎧を着こむわ、ほんとオークってロクでもないわね! 豚は豚らしく豚肉になって食べられちゃえばいいのよ!」
「マリーちゃん、いくら何でもオークを食べるのは……」

 思わず苦笑するエリカだが、その瞬間彼女の脳裏に閃光が走った。
 あるではないか、オークロードが鎧を捨てざるを得なくなる最高の方法が!

「マリーちゃん、ガラスの瓶! あの瓶をオークロードに投げつけて!」
「……! そういうことか!」

 エリカの意図を理解したローズマリーが1階の食堂で手に入れたガラス瓶をオークロード目がけて投げつける。
 3つのガラス瓶はオークロードの鎧に当たり涼しげな音を立てて砕け散る。

「……?」

 ガラスの塊が命中したところで家宝の鎧には傷1つつかないが、元々ダメージを与えるために投げたのではない。
 ガラス瓶に入っていた中身を飛び散らせる事こそ最大の目的なのだ。

 何しろそのガラス瓶には大量のノミが入っているのだから!

「……。ぶひぉっ!?」

 割れたガラス瓶からノミが四方八方に飛び散る。
 飛び散ったノミは部屋の中はもちろん、近くにいたオークロードの体にもまとわりつく。
 当然それらは頑丈な金属鎧の中に侵入し我が物顔で動き回る。
 するとどうなるか。

 突如オークロードが悶え苦しみ始める。
 体中をかきむしろうとするが鎧が邪魔になって手が届かない。

「どんなに外壁が強固な砦や城も内部に侵入されてしまえば弱いもの。頑丈な鎧の内部から攻められればさすがにたまらないでしょう?」

 エリカのその言葉通り、オークロードは鎧を脱ぎ始める。
 豚のリーダーの身を守っていた頑強な鎧はその役目を放棄された。
 ついでに身を包んでいた布もなぜか役目を放棄されたが……。

「ちょ、何でここで豚のストリップショーなんか見なきゃいけないのよ!」
「……ここまでは予想外でしたね」

 ノミ地獄から解放されるために鎧や衣服の類を全て捨て去り、素っ裸になったオークロードは至福のため息をついていた……。

 鎧が外されたのを確認できれば後はこちらのものである。
 エリオットの魔法の矢が別のオークを倒し、鎧の無くなったオークロードにはナオミの刀が炸裂する。
 事態を理解したオークどもも反撃に出る。
 先程の豚肉発言が効いたのか、雑魚のオークを斬り倒したローズマリーにオークロードの一撃が襲い掛かり、その勢いで壁に叩きつけられた少女はそのまま気絶する。
 殺し屋1人を戦闘不能に追い込んだとはいえ数の優位性では人間たちの方に分がある。
 そこに緑色の男のもう1つの魔術が襲い掛かる。

「死への眠りへと誘う風よ、我に仇なす者をその腕に抱け。眠れ、眠りの雲!」

 指先から無味無臭の誘眠性ガスが放たれ、残った2体の豚野郎を眠りに落とさんとする。
 さすがにロードの方には抵抗されてしまったが雑魚の方は眠らせることに成功した。

 こうなればもはや勝負は決まったようなもの。
 眠ったオークにジョナサンがとどめを刺し、残りの攻撃がオークロードに集中する。
 頑丈な鎧どころか何も身に着けていないオークロードに身を守る手段は無い。
 冒険者たちに袋叩きにされ、情けない断末魔を上げて、不埒な豚野郎は討伐された。

 オークロードの巨体が倒れる音が聞こえたのだろうか、山荘内に潜んでいたらしい他のオークが我先にと逃げていく様子が寝室の窓から見える。
 どうやら山荘内の危険は完全に排除されたようだ。

「とりあえずこれで依頼完了、ですかね」

 逃げるオークの姿を見届けたナオミが刀を鞘にしまいながら部屋内を見渡す。
 ふとリヒャルトの姿が目に入った。

「うぅぅ、爺様の霊に何とお詫びしてよいやら……。よもや形見の鎧を豚なんぞに着させてしまうとは!」
「……さすがにこれは不可抗力、ってやつじゃない?」

 家宝の鎧をかき抱きながら滂沱の涙を流す騎士道一筋の男にジョナサンがそう声をかけるが、どうやらその声は届いていないようだった。

 また心中穏やかでないのがもう1人。
 エリカの治療を受けて気絶から復活したローズマリーである。

「ムカつく~! 豚なんかにやられるなんて~!」
「気絶させられた後でそれだけ元気なら大丈夫だな」

 愛用の剣を鞘にしまいながら地団太を踏む女殺し屋にエリオットがそう声をかけるが、どうやらその声は届いていないようだった。

 何はともあれ、山荘に巣食った妖魔は全て片付いた。

 山荘の掃除は後日に回すこととなり、一行は星屑の夜空亭への帰途についた。

「お、お帰り。どうだった……、って、リヒャルト殿?」

 宿に着くと亭主のジョッシュ・クーパーが声をかけてくる。
 リヒャルトの落胆した様子に亭主は怪訝な表情を浮かべた。

「おい、何かひどく落ち込んでいるようだが……、まさかしくじったのか?」
「まさか。依頼は達成したよ。ただね……」

 亭主に問われたジョナサンが山荘内で起きた出来事について報告した。

「オークが家宝の鎧を? そいつは気の毒になぁ」
「しかもオークから鎧を脱がせるためにノミの入った瓶を叩きつけたからね。まだ残ってるかもよ?」
「……それはまた気の毒に」

 オークロードの皮脂にまみれ、しかもノミにたかられた家宝の鎧。
 先祖本人はどう考えるかわからないが、少なくとも子孫の落胆たるや計り知れない。

 そんなリヒャルトは落胆の色を隠しもせずに袋を1つカウンターテーブルに置いた。
 重量感のあるそれはどうやら報酬のようだった。

「……諸君、ご苦労じゃったな。これが約束の報酬じゃ」
「……まいどあり」

 代表してジョナサンが応じるが、報酬を受け取っても素直に喜べないのはなぜだろう。

「それじゃ、吾輩は失礼させてもらうよ……。はぁ……」

 リヒャルト・フォン・リンツは冒険者の宿を出て行った。
 薄汚れた家宝の鎧を大事そうに抱えて……。

「……ああなると、さすがに騎士や貴族も哀れなものですね」

 貴族嫌いの急先鋒がその背中を見届けてため息をつく。

「お前さん、内心で喜んでないか?」
「いえ、さすがにそれは……。貴族の中でも彼はまだマシな方でしたから」

 世の全ての貴族がああいったものであればまだ世の中はまともになったかもしれない、とナオミは思う。
 かつて大貴族に家族と財産を不当に奪われたその憎しみはいまだ消えることはない。

「よっしゃ、飲むで~!」
「祝杯よ~!」

 だがそんな考えはパーティの呑兵衛2人の怒号によってかき消された。
 騎士の落胆もどこへやら、報酬が手に入ればもうどうでもよいとばかりに酒と料理を注文するろくでなしども。

 そんな連中を横目に、女軍人は苦笑いを浮かべた。



・プレイしたシナリオ
シナリオ名:家宝の鎧
対象レベル:1~3
作者   :齋藤 洋(groupAsk)様
入手場所 :groupAsk公式サイト、及びギルド

・今回の収支
所持金   800sp
収入+   800sp…報酬
―――――――――
合計=  1600sp

・入手品
スキル …氷柱の槍→エリオットへ
アイテム…ガラス瓶×3→シナリオ内で全部消費

・取得クーポン
全員    …リヒャルト卿の依頼解決(+1)

・備考
レベルアップ→ジョナサン、エリオット、ナオミ、ガルディス、ローズマリー…レベル2ヘ

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