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PC1・ジョナサン

 熱と光の玉に姿を変えた女神が、宵闇のマントを纏った紳士を追い出しその眩しさで世界を照らしてゆく。

 海の青、森や山の緑、砂漠の黄、街や村に組み込まれた自然由来の、あるいは人工的に生み出された色、色、色。

 太陽の光が空を青と白に染め上げ、地上に横たわる様々なものに色を付けていく。
 色づく世界は、一部の例外を除いて生き物たちを目覚めさせ、彼らがこの世に存在し始めてから一切変わることの無い――1日の始まりを告げる。

 朝日の到来は生きとし生ける者たちの希望の象徴だ。
 毎日決まった時間にやって来る光の塊は、自身がこれまで生きてきたことを、これから先も生き続けることを覚えさせ、そして今まさに生きているという事実に感謝させるのだ。

 感謝。
 そう、男はまさに感謝していた。
 表面的に、ではなく、あくまでも本能の部分において、ではあったが。

 民家と呼ぶには大きいその場所は「宿」と呼ばれている。
 複数の人間――無論、中には厳密には人間と呼べない者もいるが――が時には共同生活を送り、時には単独でその日を過ごす宿泊施設。
 だが単なる宿泊施設とは違い、中に住んでいるのは宿の経営者とその家族、そして外部からやってきた不特定多数の老若男女である。
 一時の寝床を求めて門を叩く者もいるがそういった手合いはほんのわずかであり、ほとんどがこの宿での住み込みを希望する。
 住み込みを決めた者は何かしらの形で宿の利益のために働くことを余儀なくされ、それは多くが外部から持ち込まれた騒動や厄介事の解決の依頼で、彼らはその解決の専門家となることを、あるいは自ら望んだ。

 依頼ひとつで東奔西走。
 場合によってはこの世ならざる場所へと赴き、時には人を、時には人ならざる化け物を相手に戦い、その多くは志半ばで命を落とし、残った僅かは世界中に名を轟かせる何かへと成る。
 大地を、海を、山を、地下を、遺跡を渡り歩くその姿から、トラブル解決の専門家たる彼らは「冒険者」と呼ばれた。

 その冒険者は感謝していた。
 今日も1日が始まることを。
 変わらぬ毎日にひとかけらのスパイスを放り込めることを。

 1軒の宿の屋根に上った彼は頑丈な箇所を見つけると、そこにロープの一方を縛り付ける。
 もう片方は屋根から外に向かって放り投げ、自身はそのロープを伝って宿の外壁へと向かう。
 外壁から見えるは外の空気と光を取り入れ、または中の空気を排出する窓。
 および、その窓の取り付けられた部屋だ。
 太陽の光が燦々と降り注ぐこの時期は、窓を閉め切ってしまうと部屋の中が蒸し焼きの窯と同じことになってしまい、それを回避するためには窓を開けざるを得ない。
 地上から大の男数人分の高さに位置するその部屋は、男のように何かしらの道具を使って覗き込むか、あるいは空中を自在に飛び回れる秘術でも使わない限り、そうそう内部の様子を知られることは無い。
 特にこの宿は町から外れた場所に建っており、近くに高さのある民家は無いため、中を覗き込まれる心配はほぼ皆無と言ってよかった。

 男は目的の窓を見つけると、そこから部屋の様子を観察する。
 木造の建物の内部はやはり木製の内装で統一されており、それでいて殺風景などではなく、華やかに塗装された壁や、可愛らしい柄の布で覆われた寝具が見える。
 どうやら中の住人は女性であるらしく、しかもその本人はいまだ夢の中にいるのか、ベッドの中ですやすやと安らかな寝息を立てていた。

 含み笑いがこぼれる。
 なんという絶好のタイミング。
 朝日が昇って半刻ほど、すでに起きていればどうしようもなかったが、この時間であれば当の女性は大抵はまだ寝ているということを彼は知っていた。
 自身の望んだ展開だ。
 この後に繰り広げられるであろう展開を考えると、笑みを消すことができない。
 だが、今、声を上げてはだめだ。
 声を出すにもタイミングが必要なのだ。

 目的の高さになるまでロープを掴む手を調整し、丁度いいところで大きく体を揺らす。
 前に、後ろに、また前に、また後ろに。
 振り子のように自身を揺れ動かし、勢いをつける。
 それなりに速度が付けば、後は然るべきタイミングで手を離せばいい。
 そうして宙を舞い、部屋の中へ自らを飛び込ませる。
 自身の考えた女性に対する最高のモーニングコールだ。

「カ~レ~ンちゃ~ん――」

 部屋の住人に声をかける。
 大声ではないので実際は中にまで声は届かない。
 だがそれでいい。
 この後が重要なのだ。

「あっさ、でっす――よ~!」

 振り子運動で勢いのついたロープから手を離し、朝の挨拶を叫びながらそのまま自らを矢のごとく一直線に飛ばす。
 頭を前に、足を後ろに伸ばしてスマートに、それでいて素早く部屋の中へと突撃する。
 行ける。
 長年培った経験と勘は今日も冴え渡っている。
 窓枠に接触することなく綺麗に飛び込める!

 そう、思っていた。

 男の顔が壁と部屋の境界線を越えた瞬間、中の様子が一変した。
 熟睡していたはずの女性が突然飛び起き、掛け布の中から黒光りする板――丸く加工された本体の一部から取っ手がのび、全体が鉄でできたフライパンと呼ばれる調理器具を取り出したかと思うと、それを両手に構え大きく振りかぶり、高速でやってきた闖入者に向かって横薙ぎに振り抜いたのだ。

 正面からアッパースイング気味に放たれたフライパンは、最高のモーニングコールを考えついた男の顔面に熱烈なキスを浴びせ、その勢いのまま全身を部屋の中どころか遥か彼方へと吹き飛ばす。

 女性の目覚ましには成功したが、それを遥かに超える強力な目覚ましの1発を浴びた男の悲鳴が、朝の空に響き渡った……。

*     *     *

「いや~、見事なフルスイング。最高の目覚ましだったよ、カレンちゃん」
「こっちは最悪の目覚めだったけどね、ジョニィさん」

 カレン・クーパー――赤茶色の長い髪を1つにまとめ、右肩から垂らした若い女性は酒場と食事処を兼ねる宿の1階部分を掃除しながら、最悪な目覚まし方法を思いついた冒険者の男を睨みつけた。

 2階の自室にいた時と違い、今は寝間着からいわゆる給仕服へと姿を変えているこの女性は、世界に数ある冒険者の宿の1つ「星屑の夜空亭」の経営者の娘で、主に宿にやって来る一般客や冒険者の接客を行う、いわゆる給仕担当だ。
 その笑顔が絶えない――8割はいわゆる営業スマイルだが――愛らしい顔立ちと、愛嬌を振りまく立ち居振る舞いは、宿に住み着く冒険者のみならず外部からの一般客からも人気で、彼女を目当てに宿にやって来る不埒者もいるほどだ。
 とはいえ、不埒者の中にカレンに手を出せた者はいない。
 手を出す前に彼女のファンを名乗る男どもから制裁を受けるか、もしくは怒ったカレンから直接フライパンで殴打されるという運命を辿るからだ。
 もっとも不埒者にしてみれば後者の運命に巡り合ったとしても喜ぶのだろうが。

 ジョニィさんと呼ばれた男はそんなカレンのファンの1人であり、不埒者の1人である。
 ジョニィとはあくまでも愛称であり、彼の本名はジョナサン・グレスティーダという。
 星屑の夜空亭に所属する冒険者の1人で、年は17歳と若く、光沢の無い金髪を乗せた顔は若者特有の整ったものをしており、成熟された大人の魅力こそ無いものの、活力に溢れたその身には俗に言う体操の選手を思わせる引き締まった筋肉を有しており、金属の鎧ではなく袖の無い上衣と長いズボンといった出で立ちがその身軽さを演出していた。
 ロープ1本で宿の外から2階の部屋の窓に向かって正確に飛翔できたのもその身軽さのおかげである。

「え、ダメだった? 熟睡から一気に目覚められるいい方法だと思うんだけど?」
「どう考えてもただのセクハラでしょうが!」

 床を軽く箒で掃きながらカレンはジョナサンの軽口に怒号で返す。

「まったくもう。最近、ナンパだけじゃなくセクハラにも磨きがかかったみたいね」
「セクハラだのナンパだのってそんな人聞きの悪い。俺はただ世の女性方に愛を説いてるだけだって」
「……あなたその内、女性関係で治安隊のお世話になりそうね。というか、それで捕まってないのは何でかしら」
「声をかけた女の子から直接ぶん殴られることはあるけどね」
「……出会った頃はまだまともだったのにどうしてこうなったのやら」

 ジョナサンは星屑の夜空亭きっての有名人である。
 だがそれは冒険者としての実力がどうこうというものではなく、彼が出会う女性に片っ端から声をかけるナンパ男という側面からくるものだ。

 ジョナサンがカレンと知り合ったのは、彼が冒険者になって間もない頃だった。
 星屑の夜空亭の亭主――すなわちカレンの父親にあたる男の手引きで宿に所属することとなったジョナサンは、当時はある理由から人間不信に陥っており、女性を見れば誰彼構わず声をかけるなどといったことはしなかった。

 しばらくの後に彼が請けたとある依頼を経て、人としての自信を取り戻し、冒険者としての自信を身に着けてから、彼は次第に本性を現した。
 すなわち、女性を見れば目にも留まらぬ速度で近づいては口説きにかかり、断られてもしばらくは食い下がろうとするのだ。
 すぐ近くに別の女性がいればすぐさまそちらに向かうため、1人にかかる時間は短かったが。

 基本的にジョナサンが目をつける女性は同年代近辺の若い女の子ばかり――無論、16歳のカレンもその標的である――だが、それがゆえにトラブルに陥りやすい。
 彼の場合、とりあえず声をかけるというその性質上、相手の女性に恋人がいたとしてもそれに気づけないことが多いのだ。
 さすがにジョナサンも恋人持ちの女性を口説くほど分別が無いわけではない。
 恋人の存在を知る、あるいは当の恋人が現れたなら身を引くようにはしている。
 だがその恋人の方はどうか。
 自分の彼女が見知らぬ変な男に口説かれそうになったのだ。
 到底許せるものではない。そうして女性の彼氏に睨まれ、なおかつ殴り掛かられた回数は100を優に超える。
 無論、全ての非はジョナサンにあるため、時には無抵抗のまま殴られ、時には全力で逃げ出すのが彼の日常だった。
 ナンパ対象である女性本人から拒絶の意思と共に殴られる回数も同じくらいあったが。

「それにしても、そんなに女の人に声をかけて毎回断られるのによく懲りないわよね。普通なら途中で諦めそうなものだけど、何がそんなにジョニィさんを駆り立てるのやら」
「あれ、知らないの? お誘いに乗ってくれる女の子もいるんだよ、実は」
「え、本当? 噂すら聞いたことないんだけど?」
「意外と知られてないってのは否定しないけどね。これでもたまに感謝されたりはするんだよな。絡まれてる女の子を助けた時とかは特に」
「……あぁ、確かにジョニィさんって、女の人がチンピラとかに絡まれた時にはそれこそ本気で助けてくれるわね」
「でしょ?」
「でもそういう時に『俺の女に手を出すな』って毎回言うのはどうかと思うのよね。誰にでも言ってるでしょ?」
「…………」

 苦笑しながらジョナサンは肩をすくめた。

 ジョナサンは確かに手当たり次第に女性に声をかける不届き者として有名だが、一方で女性を助けるヒーローとしても有名だった。

 剣と魔法、金と権威と力が幅を利かせるこの世界において、女は「支配される弱い立場」と見られる事が多く、それに比例して男は「支配すべき強い立場」であると勘違いする者が多くいる。
 当然その風潮は星屑の夜空亭が存在する交易都市リューンにおいても広まっており、人の往来の激しい表通りはともかく、路地裏といった人の目の届きにくい場所では力の弱い女性が複数人の男に襲われるという事も少なくなかった。

 そんな時に現れるのがジョナサン・グレスティーダという男だ。
 女性の悲鳴を聞きつけるや否や、おおよそ人間が行動できる場所であればどこにでも現れ、不届き者を一瞬にして叩きのめしていくのだ。
 そしてその際には決まって、

「お前ら! 俺の女に手を出すんじゃない!」

 といった風の言葉を残していくのだが、この言葉のせいで助けられた女性から星屑の夜空亭に、

「助けてくれたのは感謝するけど、あの言葉だけはどうにかならないの? 私はあの男の恋人になった覚えは無いわ」

 と苦情が入るのが常だという。

(軽そうな男なのにやたら強いのが逆にタチ悪いのよね……)

 問題発言の多いジョナサンだが、その強さはカレンも含め誰もが認めるところだった。
 彼は冒険者になる以前からそれなりの戦闘力を有しており、その武器は多くの冒険者が一般的に扱う「剣」ではない。
 彼の武器は自身の身長ほどの長さのある棒――東方の国で言うところの「棍」で、ある時は槍のように突き出し、ある時は斧のように薙ぎ払い、ある時は剣のように振り下ろす。
 舞うような変幻自在の戦い方が彼の持ち味だが、そんな彼は自分の事を決して戦士だとは名乗らない。

 金属製の鎧を身に着ける事は無く、戦士と呼ぶには彼は身軽すぎる。
 武芸を極めひたすら強さを求める、とは言い難い立ち居振る舞いは、武闘家と呼ぶにはふさわしくない。
 山奥で育ち、戦いの師と共に山を駆け、森を飛び回る。
 自然に囲まれて育った彼の本分は、実は「狩人」なのだ。
 本人の口から聞かされて初めて理解できる程度のものであるが。

(しかも、山育ちの田舎育ちという割に見た目は結構いいのよね。中身が残念なのが本当にもったいない……)

 17歳と冒険者の中では比較的若い方であるジョナサンは、カレンの思う通り外見の評価は意外と低くない。
 それどころか異性からの評価は実は高い方なのだ。
 整ったその顔立ちは決して美形と呼ばれるようなものではないが、その顔から生まれる様々な表情が、彼に不思議な魅力を与えていた。
 美味しい食事を前にすれば子供のように目を輝かせ、ケンカや戦いとなれば不敵な笑みを浮かべ、時折、全ての感情をどこかに置いて来てしまったかのように目を伏せる。

 そんな彼に魅了されない女性はいない。
 実際、遠目に見た彼の姿に運命を感じたと語る女性は多い。
 だが次の瞬間には女性たちはその評価を完全に反転させる。
 彼の女好きでナンパ好きな部分に幻滅する女性は後を絶たない。

「あいつは自分の魅力を自らの手で全て台無しにする奴だ」

 ジョナサンをよく知る者は苦笑いを添えて一様にこう語るのだ。

「それはそうとジョニィさん、いつもの『日課』はどうしたの?」

 宿の1階の掃除を終え、食料の備蓄を確かめながらカレンが問いかけた。

「ああ、これから行くところだよ。目も覚めたしね」
「そう。紅茶、飲んでく?」
「ううん、今はいいや。帰ってきた時に淹れてよ」
「厄介事を持って帰ったりしないでよ?」
「しないって。ただ走り回るだけなんだからさ」

 言いながらジョナサンは愛用の棍を背負うようにして腰のベルトに挟み込む。
 靴の調子を確かめ、軽く全身を伸ばし、軽快な足取りで星屑の夜空亭のスイングドアを押しのける。
 朝に宿を出て、リューンの街を適当に走り回る。
 ただし整備された街道だけでなく、時には人通りの激しい露店街、時には道どころか建物の壁を上り屋根の上を飛び回り、毎回同じルートは決して通らない、毎朝のジョナサンの「日課」がこれから始まるのだ。

 体を鍛えるために行っているわけではない。
 師について山を駆け巡った日常がそのまま続いているだけだ。

 街中のちょっとしたパトロールも兼ねているがそれは主な目的ではない。
 ついでに見ているだけだ。

 義務感や責任感から続けているわけではない。
 武術も、ナンパも、冒険者も、ただやりたいからやっている、それだけだ。

 ジョナサン・グレスティーダは、そんな男だった。

Next→PC2・エリオット




万能型
田舎育ち   不心得者   誠実
猪突猛進   献身的    進取派
好奇心旺盛  陽気     派手
軟派     お人好し   愛に生きる

 リプレイのPC第1号、ジョナサンです。
 長い棒を武器にしたいわゆる棒術と、狩人・野伏系の技能を中心に立ち回るパーティのリーダーとして活動してもらいます。
「シティーハンター」の冴羽獠と「ゲットバッカーズ」の天野銀次を足して2で割ったような性格で、どちらかと言えばコメディリリーフ的な男なんですが、誰が何と言おうとこいつがリーダーです。
 とはいえはっきり言ってリーダーらしいことはあまりしません。
 彼らにとって「リーダー」という単語はあだ名のようなものなので。

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しがないカードワースのリプレイ書き。とある所でTRPGのプレイヤー&ゲームマスターもしております。
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