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PC3・ナオミ

 今日は厄日だろうか。彼女は内心で毒づいた。

 普段であれば拠点にしている冒険者の宿「星屑の夜空亭」の裏で剣の素振りを2000回行い、汗を拭った後は自室にて柔軟体操、次いで座禅を組み黙想に入る。
 冒険者として依頼が無い日はいつも行っている日課を、今日も行うはずだった。

 それがどういうわけか日課に入る前にカレン――宿の娘に呼び止められた。
 宿の備品や食料が少なくなってきているので買い出しに行ってほしい、とのことだった。
 無論、断ることもできたのだが、ちょうど手の空いている者が自分しかいないことが彼女の運命を決定づけてしまった。

 求めている物が品切れといったトラブルに遭うなどといった事は無く、買い物は無事に終わった。
 そこまでは良かった。
 その後の帰り道が悪かった。
 よりにもよって往来の真ん中で妙な連中に目をつけられた。チンピラが1人か2人程度ならまだ適当にあしらって逃げに徹することができたものを、人数が5人、しかもその内の1人はそれなりの手練れらしいときた。
 ただでさえ日課をこなせなくて少しばかり不満だというのに、この状況はさすがによろしくない。

 こんなにも空が青いのになぜこのような目に遭うのか。
 いや、違った。
 こんなにも空が青いからこそ、このような輩が湧いて出てくるのか。

 彼女は不満げな顔を隠さずに内心で毒づいた。

「よぉよぉ、そこの白いお嬢ちゃん、朝っぱらから随分とゴキゲンだねぇ~」
「お買い物してたのぉ? だったらついでに俺たちと遊ぼうよぉ~」
「それにしても君って美人だねぇ。この辺じゃあまり見ない黒髪がとってもキュート!」

 自身を囲んだ男たちが下卑た声と態度で迫る。
 いかにも汚らしい身なりによく似合った気持ち悪さに彼女は呆れるしかない。

「白のマントも似合ってるね~。清楚美人って感じでさぁ~。でもちょっと汚れてくすんでるのがもったいないねぇ」
「肩から剣みたいなのが見えてるけど、君には似合わないよ、全然!」
「顔立ちはいいんだけど、化粧っ気が無いのがダメだねぇ。せっかくの美人が台無しだよ~」

 大きなお世話だ。
 大声で怒鳴ってやりたかったが、目の前の典型的なチンピラ風情に怒鳴ったところで意味が無いことは知っていたので怒りと声を同時に飲み込む。

 首から下を包む白の外套は交易都市リューンに来る前から身に着けていたもので、確かに汚れが重なってくすんでしまっている。
 別段、お気に入りというわけではないが、生まれ育った故郷を離れる際に適当な店で購入した旅装は、今現在に至るまで買い替えることなく彼女の体を包んでくれた。
 愛着も湧こうものだ。
 故郷にいた頃は体のラインが強調されるほどに密着する黒の上下を着続けていただけに、白というのは非常に珍しく、旅立つにあたって普段とは違う自分を演出するために買ってみたのだが、これが意外と手放すことができず、いつしか半ば彼女のトレードマークとなっていた。

 別に外套をけなされるのは構わない。
 使い物にならなくなれば買い替えればいいのだから。
 背負っている武器が似合わないと言われるのもどうでもいい。
 似合うかどうかで選んだわけではないのだから。
 顔立ちも化粧の有無も適当に言わせておけばいい。
 そもそも自分は女を捨てていると言ってもいい生き方をしているのだから。

 だが、そんな自分にも我慢の限界はある。
 目の前の女の表情が不満げなものから凍り付いたそれになっていくのに気づかないまま男たちは続けた。

「せっかくだしさ、俺たちが服を見繕ってあげてもいいよ? 化粧のやり方も教えてあげるしさ。新しい自分に生まれ変わるつもりでさ、俺たちにつきあってよ」
「……つきあう?」

 女の口がそこで初めて開いた。

「そう、つきあうの。君は、俺たちと、つきあう。オーケー?」

 その言葉を聞いた瞬間、彼女の脳内にて戦術のシミュレーションが開始される。

 まずは手に持っていた荷物袋を地面に下ろす。中には割れ物も入っているのでできるだけ衝撃を与えずに。
 行動の自由は多少制限されるだろうが、盗難防止を考えて足の間に置くのがベターだろう。

 周囲にはチンピラが5人。
 前方に3、後方よりの左右に1ずつ。
 近づいてくるのは左右の2人。
 手練れは真正面にいる。
 前方の3人とは距離が離れているが、左右に対処している間に詰められるのは間違いない。
 だがこの場合は、まずは離れているというのが重要だ。
 詰められるまでには時間の猶予がある。
 その間に体勢を整え、場合により背中の得物を抜くのもいい。

 これで十分。後は実行に移すのみ。

「お、荷物なんか置いちゃって。ようやくその気になってくれた?」
「……ええ。『つきあえば』よろしいんですね?」

 言った瞬間、女の左の肘が左後方にいた男の胸の下に突き刺さった。
 鋭く突き出された肘は男の心臓を激しく揺らし、男に言いようのない衝撃を与える。
 肺から空気が抜けるわけでなく、腹に詰まった内臓が気持ち悪さを訴えるわけでもなく、ただひたすら本能に生命の危険を知らせ、それが男の体の動きを止める。
 突き刺した左肘を離したかと思うと、女はそこから左手で拳を作り男の顎を打ち抜く。
 完全に無防備だった男はその突き上げに宙を舞わされ、その勢いのまま頭から落とされた。

 雷のような女の動きに右後方の男はあっけにとられたが、すぐさま思い直し、女を抑えようとその手を伸ばす。
 だが男の腕よりも女の右足の方が長い。
 体を無理矢理傾け、右足を浮かせたかと思うと、次の瞬間には男の胸、やはり心臓付近に右足の靴底が叩きつけられる。
 正面からの衝撃に右後方の男は3メートルほど後ろへ飛ばされ、近くの建物にぶつけられた。
 建物の壁を枕にしたまま男は地面に崩れ落ちる。

「な、て、てめえ! 何を!」
「……これでは『突き合い』ではなく、ただの『突き』ですね。で、誰が私と『突き合って』くれるんですか?」

 言いながら女は前方の3人に向けて向き直る。
 その立ち居振る舞いは歴戦の戦士を連想させた。

 左右の男があっという間に倒されたのを見て手練れ以外の2人は腰が引けている。
 女が想定していた時間以上の余裕が生まれ、その間に構え直す。
 得物は必要ない。
 どうやら素手で対処できる程度のものらしい。
 それが証拠に女を抑え込もうと真正面から男たちが襲い掛かって来るが、手練れの男だけは指示を出すばかりで向かってこない。
 腰が引けた状態で後ろから追い立てられるように突撃してくる2人は、表情や動きからすでに戦意が無いことは明らかだった。

 だが女はそんな連中にも決して容赦はしない。
 右側の男の腹に膝蹴りを叩き込み、体が前のめりに折れたところで露になった首めがけて肘をめり込ませる。
 頸椎を強く打たれ、男はそれで意識を失う。
 その間に左側の男が接触してくるが、女はそんな男の腕をつかみ、自らの体を男の体の内側に潜り込ませ、男の突撃の勢いと腕を引く勢いを利用し、柔道でいう背負い投げの要領で近くの壁に投げつける。
 当然受け身など取れようはずがなく、男は壁に顔面から突っ込み、そのまま地面に崩れ落ちた。

 自然と女は手練れの男に背を向ける形になる。
 男はそこを見逃さなかった。腰から大振りのナイフを抜き女に向かって突きにかかる。
 生物を殺傷するにあたって有効なのは、身体の表面を傷つける斬撃よりも肉体に深く食い込む刺突であると言われている。
 確実に男は女を殺すつもりでいた。

 だがいくら手練れといえど所詮はチンピラ。
 正式な剣術など身に着けた事など無いのだろう、とりあえず体ごとナイフを突き出してくるその気配を女が察知する方が早かった。

 男に背を向けたまま、女は左肩から見える剣に右手を伸ばす。
 左肩越しに柄を握り、自身の正面に鞘ごとそれを引っ張ってくる。
 鍔の部分が見えたらそこに左手を添え、押し出す親指の動きで刀身を解放してやる。
 両腕と胸の長さを一杯に使って抜き放たれた反りのある剣――遠い東方の剣士が愛用する刀と呼ばれるそれは、女の体が右へ半回転するのに合わせて銀色の煌きを残し、自身に突き立てられるはずだった悪意を弾き飛ばした。

「なっ――!?」

 男の手から飛ばされたナイフは数瞬だけ宙を舞い、民家の扉に突き刺さる。
 周囲に人がいないのが幸いだった。弾かれたナイフが罪の無い誰かを傷つけていたかもしれないし、振り抜いた全長1.5メートルもの長さの刀が誰かを斬りつけていたかもしれなかった。

 その事実を確認した女は返す刀で男の首元に刃を突き付けた。
 首に当てられた刀は薄皮1枚切り裂くことなく、ただ当てられている。
 一切の負傷を追わなかった男は、しかしながらそれ以上のダメージを負わされていた。
 女の振るう刀もそうだが、女から向けられる視線が男に恐怖を与えていた。

 動けば殺す。
 女は言外にそう告げており、そして確実に実行するであろう。
 向けられるその目つきに嘘偽りが無いことを理解した男は失神することも忘れて、ただ微動だにできなかった。

「……あなたみたいなクズ野郎を殺すのももったいない」

 努めて冷静に女は告げる。

「この刀にあなたの汚い血を吸わせるのはやめてください。無論、それがお望みとあらば遠慮なくそうしますが」

 そこまで聞いて、男はようやく気を失うことを許された。
 崩れ落ちる男には目もくれず、長い刀を鞘に戻し、地面に置いていた荷物袋を持ち直して、女はようやく帰路についた。

*     *     *

「うわ~、それは災難だったわねナオミさん。なんだか悪いことしちゃったかなぁ」

 星屑の夜空亭に帰り着き、事の顛末を報告した女剣士――ナオミ・アンダーソンは、カレンのその言葉とカップに注がれた冷水で労われた。

「いえ、私だったからこの程度で済んだんですよ。戦う力を持たない一般市民ならそれこそどうなっていたか」
「だとしても、よ。ただのお使いに行かせたら危険な目に遭ったなんて笑い事じゃないわ」
「日課代わりの実戦訓練だと思えば腹も立ちませんよ。まあ運動した分お腹が空いてしまったので、朝食を頂けませんか。危険手当の分、おいしいのをお願いしますよ?」
「軍人さんにそう言ってもらえると助かるわ。せっかくナオミさんが買ってきてくれた食材だもの、腕によりをかけて作らせてもらうわね」

 逆に労われる形となったカレンが食材を手に厨房へと入るのを、ナオミは冷水を喉に流し込みながら見送った。

 冒険者ナオミ・アンダーソンが普段使用する武器は一般的な刀剣と比べて非常に長い「大太刀」に相当する刀だが、彼女は決して東方の「サムライ」ではない。
 まして剣士や戦士と称するのも間違いである。
 確かに彼女は戦いのために鍛えられた肉体を有しており、有事とあらば背中の刀を振るい、最前線にて人や妖魔を問わず斬り倒す。
 そういう生活が染みついているが、戦いそれ自体を求め戦いに生きる戦士ではなく、他者を守る志を掲げ重い鎧に身を包む騎士でもなく、誰かに雇われて戦場に身を投じる傭兵でもない。

 遠い北の国の軍隊に所属する「軍人」というのが、彼女に対する正確な肩書きだった。

 アンダーソン家は北方における交易商人の出であり、ナオミ自身はもちろん、彼女と双子の兄も両親も戦いに生きるような人格を有していない。
 決して裕福とは言えなかったが、父の商才のおかげで貧しい暮らしを送ることもなかった。
 何事も無ければ兄が家業を継ぎ、自身はその補佐に回る。そう、信じて疑わなかった。

 だが世の中というものはそんなささやかな願望を許さないようにできているらしい。

 アンダーソン家があるその国は、平民の上に貴族が多数存在し、その頂点に皇帝がいる、いわゆる貴族社会の国だった。
 農民のように土にまみれることなく、商人のように愛想笑いを浮かべることなく、汗をかかない、決して飢えない。ただ生まれたというだけで全ての人民の上に立つ――と勘違いした、魂まで選民思想に染まりきった人の姿をした何かが支配する国。
 貴族たちにとって平民とは須く貴族のために生き、搾取されるべき存在であり、人間と呼んではならない何かであった。

 ナオミの一家がそんな貴族たちの悪意を受けたのは、言ってしまえばただの偶然だった。
 とある大貴族の乗る馬車に母が誤って撥ねられ、母はそのまま即死した。
 一般的な社会であれば人を轢き殺した側が罪に問われるはずだったが、ナオミの国ではその逆の展開が当然のように待っていた。
 貴族の乗る馬車の前に飛び出し、あろうことかその身でもって馬車に傷をつけ、噴き出した血で馬車を汚したという罪で母親の方が大罪人として扱われ、その慰謝料としてアンダーソン家が所有する家以外の財産全てを没収されたのだ。
 無論、父はそれに抗議したが、父の方は「貴族の馬車に傷と汚れをつけた売女(ばいた)」を制御できなかった無能者と罵られた挙句、貴族に楯突いた反逆者として即決の裁判が行われ、その場で斬り殺された。

 残された兄妹の下に返された――と言うよりは処分するのももったいないという理由で突き返されたも同然だったが――両親の遺体は、2人の手でひっそりと埋葬された。
 家財道具が無くなり空っぽになった家と、お互い以外の全てを失った幼い兄妹は両親の墓の前で涙を流すことしかできなかった。
 だが兄の方は流れる涙を怒りの炎を燃やす燃料へと変えていた。

「力だ……。力が欲しい……。何ものにも邪魔されないだけの強大な力が欲しい。近所の悪ガキどもが邪魔をするならそいつらを凌ぐ力が。大人が邪魔をするなら大人を凌ぐ力が。貴族が邪魔をするなら、皇帝が邪魔をするならそいつらをも凌ぐ力が欲しい! ナオミ、僕と一緒に来い! 2人で力をつけ、奴らを叩き潰してやるんだ!」

 国を牛耳る貴族たちと皇帝を倒し、両親の仇を討つ!

 幼い兄妹は生まれて初めて、強さを求めた。

 何も無い状態ではどうすることもできなかったが、殺された両親は万が一を考えて財産の一部を隠してくれていた。
 その隠し財産を使い、冷静で知に優れた兄は魔術を学び、活発で力に優れた妹は剣を学んだ。
 身に着けたそれぞれの力をもって2人はその国の軍人になる。
 平民が権力を手に入れる最も手軽な方法が軍人となってのし上がる事だったからだ。
 同時期に軍に入った平民や貴族の子弟どもを優れた才覚で圧倒していった兄妹は、互いに武勲を重ね、いつしか軍の中でも高い地位につくことになった。
 2人が17歳になった時、兄ケン・アンダーソンは軍の中でも比較的少数の魔導兵部隊の一員として最高位から1歩手前の上級大将の地位を手に入れ、妹ナオミ・アンダーソンは歩兵部隊の一員として大佐の地位を手に入れた。
 無論、軍にとってこれは異例にもほどがある出世だったが……。

 ところがここで状況が大きく変わってしまう。
 2人がさらなる武勲を求めた矢先、国家間の情勢が落ち着き、大規模な戦いも小競り合いも無くなってしまった。
 そしてそれをきっかけに兄の方は自らの立場を固めることにしたのだが、妹の方はその兄から国外退去を命じられてしまったのだ。

「我々は確かにこの国でそれなりの地位を得た。だが戦いの無くなった今、さらにのし上がるには力だけでは足りない。もっと多くの知識や経験が必要だ。そこで私はこのまま残り自らの地位を守る。お前には他の国へ赴き、様々な事を学んでほしい。その知識や経験を持ち帰り、さらなる戦いに臨むのだ。……我々の目標のためにも、な」

 釈然としなかったナオミだが、上級大将閣下からの命令とあれば従わざるを得ないと、渋々国を出ることにした。

 そうして1年後、流れ着いたのが交易都市リューンであり、彼女はそこで現役の軍人でありながら冒険者として活動することになったのだ。

 本当ならば兄の補佐としてそのまま国に残りたかった。
 わざわざ他の国で何かを学ぶ必要など無かったはずなのだ。

 それがどういうわけか軍人とは程遠い冒険者なるものをやっている。
 この経験が一体何の役に立つというのだ。

 始めてしまった以上はある程度はやり通すつもりではいるが、先の見えないこの職業は可能であれば早めに見切りをつけたいところだ。

 カレンが作ってくれたベーコン入りのオムレツを頬張りながら、軍人ナオミ・アンダーソンは悩んでいた。

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勇将型
不心得者   誠実     冷静沈着
貪欲     秩序派    進取派
勤勉     上品     武骨
硬派     名誉こそ命

 軍人という名のパーティの戦士枠ナオミです。
 システムの数値的には「平均的な戦士」程度のステータスでしかありませんが、実は設定上はパーティでナンバー1の実力の持ち主となっております(数値でも表現したかったけどこれがなかなか難しくて……)。
 戦士枠ではありますが知力は一応上から2番目、軍事的なものに関しては誰よりも強い参謀としても活躍してもらいます。
 ただサムライじゃないのに覚えさせる予定のスキルは日本刀の技ばかりなんですよね……。
 演説か何かでも覚えさせようかなぁ……。
 ……ところで実を言うとこのナオミというキャラクター、私にカードワースを教えてくれた友人が使ってたキャラがモデルだったりするんですよね。
 魔術師の兄の存在とか、生まれ育った国の設定的なものとか、結構パクらせていただいてます。
 まあその友人とはここ10年近く連絡を取ってないというのもあって、承諾を得るのも難しい、ので、怒られるまではこのまま使わせてもらっちゃおうかなと思ってたりして……。

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しがないカードワースのリプレイ書き。とある所でTRPGのプレイヤー&ゲームマスターもしております。
画像が無いのはご勘弁。

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