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PC4・ガルディス

 陽の光が差さない、土と石で囲まれた小さな世界。
 壁に掛けられたいくつものランタンが唯一の光源としてささやかな灯りを提供している。
 息の詰まりそうな暗い世界。
 日の光の下に生きる者ならば誰もが関わり合いになりたくないと思うであろう、閉じた世界。

 だからこそ、必然的にそこに集まるのは日陰に生きる者ばかりだった。
 身なりの良くない酔っ払い、物陰に隠れ棲むことをむしろ生きがいとする盗賊や犯罪者、時折ひきつった笑みを浮かべたり、はたまた何の前触れも無く泣き出す薬物中毒の患者。
 はたまたそれらとは対称的に豪華な衣装に身を包んだ貴族らしき者、文字通り私腹を肥やしているのであろう腹の出た商人。
 そこに男女の区別は無い。
 若者から老人まであらゆる年齢の者がそこにいる。ただし、子供だけが門前払いを受けていた……。

 酒に酔った大声、設置されたテーブルに叩きつけられるカードや銀貨の塊、一瞬前には笑っていたかと思えば次の瞬間には絶望の叫びをあげる。
 そこは違法に作られた――都市や盗賊ギルド等の組織の認可を受けていない地下賭博場だった。
 客もそうだが、運営しているのは当然ながら堅気の者ではない。
 やって来るまともでない連中からひたすら金を巻き上げて、酒と女を買うことに躍起になっているような、そんな輩が客に一獲千金の幻想を眼前にちらつかせていた。

 地下世界とはいえ普段ならそこはそれなりの喧騒に満ちていたはずだ。
 だがどういうわけか今日は喧騒とは程遠い静寂がその世界を満たしていた。

 噂を聞きつけた者であれば基本的に客を拒むようなことはしない。
 金を持っている、それだけが入場資格だった。
 だからだろうか、唐突にやってきた奇妙な客の行動に場内は困惑の色を浮かべるしかなかった。

 やって来たのは若い男だった。
 身の丈は180センチメートルを越えるであろう長身、見える肌は鍛えられた筋肉が盛り上がっており、どうやらそれなりに腕はたつらしい。
 濃紺の髪をオールバックにし、目は愛想が良さそうに開かれている。
 顔の両側から伸びた耳の形は人間のそれとは違い、妖精族の特徴も持っている。
 どうやらハーフエルフらしい。
 一般にハーフエルフといえば人間とエルフの合の子で、両方の特徴を中途半端に受け継いでいるものだが、その男はハーフエルフにしてはやたら筋骨隆々の長身ときているのだ、客どもが不思議がるのも頷けるというものだ。

 そしてその奇妙なハーフエルフはこともあろうにその賭博場でカードを使ったゲームの親をやりだしたのだ。
 通常、賭博場で親といえば賭博場の運営者が行うのが筋だ。
 しかもゲームの方式は賭博場で定められたものに従うものだが、なぜかその男は自分が持ち込んだオリジナルのルールで仕切りだしたのだ。
 どう考えても仁義に反している――違法賭博の時点で仁義も何もあったものではないが――その男を最初は締め出そうとしたが、運営の者達はその男を締め出すのに失敗した。
 物理的に敵わなかったからである。
 だがそれで諦めるような運営ではない。
 当然、男の方もそれを承知していたのか運営者たちに提案を出した。

 曰く、自分が仕切るゲームで勝てたら大人しく引き下がる、と……。

 かくしてテーブルの1つでハーフエルフの闖入者と賭博場のスタッフ数名によるゲームが始まった。
 スタッフたちの手にはそれぞれ1枚のカードが握られており、目の前には表に向けられたカードが1枚ずつ。
 スタッフの1人が手の中と目の前のカードを見比べて宣言する。

「……もう1枚」

 都合3枚目のカードがやはり表を向いた状態で男の手から放たれる。
 手にはハートの5、先に出ていたのはクラブの6、放られた3枚目はスペードの7。
 合計にして18……。

「表が13、まずいんじゃないか……?」
「いや、1の位が8だ。むしろ助かった」
「チョウベエってやつか、やったな」

 スタッフたちの声は親の男に聞こえないような小声である。

「チョウベエ」というのは彼らが行っているゲームでの役の一種であり、3枚のカードの合計の内、1の位が8であることを示す。
 2枚から3枚のカードを手札とし、その1の位の数の大小で優劣を競う――ハーフエルフの男が言うところの「カブ」と呼ばれるゲームを彼らは行っていた。

 場に親を含めた人数分のカードを表にした状態で出す。
 1から10まではそのままの数値で、絵札は一律で10と数えられる。
 参加者はそれぞれのカードに掛け金を乗せ、2枚目のカードが裏向けに配られる。
 2枚のカードの1の位の数値が低ければ3枚目を要求できる。
 最初と3枚目を表に、2枚目だけを裏に、0を最低値、9を最大値として最終的に数値の大きかった者が勝ちだ。
 出来上がった数値によって呼び方が変わり、0から順にブタ、インケツ、ニタ、サンタ、ヨンタ、ゴタ、ロッポ、ナキ、と続く。
 ここまでは数字による呼び方だと想像できるが、8をチョウベエ、9をカブとなぜか呼んでおり、その由来はこのゲームを持ち込んだ本人でさえも知らないという……。

「よし、じゃあ俺はもういい」

 3人目のスタッフがカード2枚で勝負に出る。彼は7――ナキだった。
 ちなみに1人目は2人目と同じくチョウベエだ。

「さすがにこの数値の高さだ、親もそうそう勝てないだろうよ」

 3人でほくそ笑む。ここまでに5回ほどゲームを行ってきたが、その全てに彼らは負けてきた。
 自分たちが低い数値であれば仕方がないが、それなりに高い数値でも親はカブ――9を出して勝っているのだ。
 さすがに運営スタッフたちも不満が溜まろうというものだ。

「おいこらさっさと引けよ。この掛け金で今まで負けた分、全部取り返してやるんだからな!」
「……ガタガタ抜かすなや。言われんでも今からやるわい」

 長身の男の口から紡がれたのは、遠い西の方で使われる方言だった。
 訛のきついその口調にスタッフたちはどうしても慣れることができずにいる。

 男の手が山札からカードを引く。
 表にはダイヤの2、手元にはハートの3。
 ゴタだ。
 3を出しさえすればスタッフ2人と同値で、親の有利により勝利することができる。
 4なら当然勝ちだ。

 2枚目を引いたところで男の手が山札の上でゆっくりと揺れる。
 安全策をとって引かずに勝負に出るか、多少の危険を冒してでも3枚目を引くか悩んでいるらしい。

「おいどうしたよ。勝負するのか、それとも引くのか?」
「ちょっと待ったれや。今おまじないかけてるとこや」

 言いながら男は手の動きを止めない。

 数秒の後に、揺れるその手が山札の上に乗った、かと思えばその手は山札をすり抜けて男の後方へと回され、次の瞬間には男が持つ手札にダイヤの4が書かれた3枚目のカードが現れていた。
 山札からカードを引くふりをして腰の後ろに仕込んでいたカードを抜き取った、完全なイカサマだった。

「よっしゃ、来たで~! 2(にい)3(さん)4(よ)ってらっしゃいのカブや~!」

 叫んで男がカードをテーブルに叩きつける。
 確かに3枚の合計は9。
 完全な男の勝ちだった。
 男の叫びと叩きつけられたカードの勢いに負けてスタッフたちが椅子から転げ落ちた……。

「ち、ちょっと待てこら! どう考えてもおかしいだろうが!」
「どないしたんや?」

 スタッフの1人がすぐさま立ち上がり男に迫る。
 だが男の方は涼しげな表情を一切崩さない。

「どないした、じゃないだろう! 今、お前、何しやがった!」
「見てたぞ! お前、今の3枚目、山札じゃなくて腰の方から出しただろう!」
「お前まさか全部の勝負、イカサマしてたんじゃないだろうな!」

 他のスタッフたちも気色ばんで立ち上がる。
 男の方は悠然と座ったままだ。

「……ワシがイカサマしたゆう証拠がどこにあんねん?」
「今やっただろうが!」
「それを証明できるモンがどこにおるんや」
「だから今からそれを証明するんだろうが!」
「ほぉ。それで何も出て来んかったらどないするつもりや?」
「な、何だと……!?」

 明らかにイカサマで勝ちをもぎ取ったのはハーフエルフの男の方だが、そんな彼はといえば、さも何もしていないといった表情を見せつけている。

「ボディチェックは構わんけどな、それやったらワシがこの店に入った時にするべきやったんとちゃうんかい」
「何!?」
「な~んも検査せんと、このバクチに乗った時点であんさんらは負けを認めたも同然やで」
「……ッ!」
「……まあ仮に何か出てきたところで、ワシにはどうっちゅうことあらへんけどな」

 それは完全なイカサマ宣言、に見せかけた挑発だった。

「こ、この野郎……! やっぱりイカサマしてやがったか!!」

 そしてその挑発に乗り、ゲームに参加していた3人のスタッフ、周囲の客たち、叫びを聞いて駆けつけた他の運営スタッフが一斉に殺気立つ。
 中には刃物を持ってきている者もいた。

 その光景を見届けたハーフエルフの男はそこで急激に雰囲気を変えた。

「……ほぉ、ワシとケンカしてくれるっちゅうんかい。おもろいやないけ!」

 両手の指を鳴らしながら男は握り拳を作り、両腕を胸の前に持ってくる。
 両の拳のみで敵を殴り倒す格闘術――ボクシングの構えだ。

 激昂したスタッフたちはその構えの隙の無さに一瞬怯んだが、すぐさま男にとびかかる。
 だが真正面からやって来た素人臭い動きに後れを取るはずがなく、男は少し身を屈めたかと思うと、右の拳をまずは中央の男の顎に叩きつけ、瞬時に意識を奪う。
 その勢いで飛ばされた体が別のスタッフを巻き込む間に、左の拳で右からやって来るスタッフの胴を打ち据え、右の拳を振り抜き顔面を砕く。

 それを見た運営スタッフの1人が手に持っていたナイフを長身の男に投げつける。
 回転しながら飛ぶ刃が男に傷をつけるかと思われたが、男はそれを難なくかわし、着ていた上着の内側から細身のナイフを取り出して逆に投げつける。

「アホ! ナイフゆうんはこう投げるんじゃい!」

 投げられたナイフは逆に運営スタッフの肩を貫いた。

 その光景にさらに激昂する者、逆に委縮して逃げ出そうとする者が同時に現れ、賭博場内はたちまちパニックに包まれる。
 そして次の瞬間にはその光景がさらに一変していた。
 1つしか無い地下賭博場の出入り口から大勢の男女がなだれ込んできたからだ。
 手にはそれぞれナイフ、あるいは生物の首を締めあげるための絞殺紐や捕縛用の長いロープが握られている。

「と、盗賊ギルドの手入れだ!」

 誰かが叫んだが、その叫び声はたちまち怒号と殴打音と破壊音に包まれ、全員に届く前に霧散した……。

*     *     *

 違法賭博場の噂を聞き付けた交易都市リューンの盗賊ギルド――ギルドそれ自体はいくつも存在し、今回の突入作戦に参加したのはその内の1つだ――が潜入捜査を行いだしたのは噂を聞いたその日から、都市の役所から許可を得て、関係者の捕縛に踏み切ったのはそれから7日後の事だった。
 星屑の夜空亭の冒険者ガルディス・ネイドンは所属する盗賊ギルドから今回の話を受け、賭博場の摘発作戦に参加したのである。

「アホな奴らやで。ワシが挑発するために見え見えのイカサマをしたゆうことにも気ぃつかんかったんやから」

 ガルディスが担当したのは摘発に当たっての「挑発」だった。

 相手が違法賭博場であることは数日の潜入捜査でわかってはいたが、決定的な証拠を集めることはできなかった。
 ただ「賭博場を開く届が出ていない」ということだけを理由に摘発しようとしても、後に届けを出されるかあるいは店をたたんで逃げられてしまえばおしまいだ。
 賭博の客の中には薬物中毒患者やその薬物の売人、違法賭博によって利益を得ようとする貴族や、運営スタッフに武器を売りつける闇の武器商人もいたのだ。
 盗賊ギルドのメンツにかけて、そうした連中を逃がすわけにはいかない。
 だからこそ決定的な証拠――売りつけられた武器や薬物を持ち出す、ないしは客に対し不当に暴力を振るう現場が必要だった。

 そこでガルディスは「他人が運営している賭博場」に「自分が好きなゲームを持ち込む」ことでまず怒りを買い、スタッフ相手のゲームでイカサマをしたと匂わせ激怒させた。
 賭博場のスタッフの方も実はイカサマによって大金を稼いでいたのだが、無論それで「お互い様」となるはずがない。
 自分たちはイカサマをしてもいいが、それ以外の者がイカサマを働くのは決して許してはならないのだ。
 そうして見事に挑発に乗ってしまったがためにあえなく御用となったのである。

「まあその程度の連中だからこそ堅気じゃない客ばかり集まるのさ。で、その結果、真っ当な連中から怒りを買ってこの結果に収まる。因果応報ってやつさ」

 ガルディスの直接の上司が呆れたようにため息をつく。
 またつまらん連中を捕まえてしまった、とでも言いたげだった。

「まぁ、そぉゆうことやな。ワシら正義の味方に目つけられたんが運の尽きゆうやつや」
「まったくだよな。ところで……」

 上司の掌がガルディスに向けられる。

「お前さん、さっきのカブで儲けた分、まだ出してないよな?」
「……な、何のことでっか?」
「あのゲームはあくまでもギルドからの依頼、つまり仕事であってお前さんに対するボーナスじゃないんだぜ? 懐にしまい込んでないでさっさと出せっつの」
「な、何を言うてんねん! さっきのドサクサで銀貨も散らばって、ワシ1枚も回収でけへんかったんやで!?」

 ガルディスがその言葉を言い終えぬ内にガルディスの上司は彼の服を捲り上げる。
 ズボンの内側に収まっていた服の中から何枚もの銀貨が雨のように零れ落ち、銀貨特有の高い金属音が床で小気味の良い交響曲を奏でた。

「…………」
「…………」

 目をそらすガルディスの頭に、上司の鉄拳が落ちた。

「お笑い芸人みたいなことしてんじゃねえよ!」
「……ワシ、お笑い芸人ですがな」

 ハーフエルフのくせにやたら長身で格闘が得意。
 服の内側に仕込んだナイフを投げる技は、彼がかつて旅芸人の一座に所属していた頃から鍛えられた職人芸だ。

 西方のきつい訛で話し、何かしらお笑いを求めて常に騒がしく、1日に1杯以上はエール酒を飲まなければ気が済まない酔っ払い。

 盗賊ギルドに所属しているくせにおよそ盗賊らしからぬ20歳の若者。
「盗賊ギルドのお笑い芸人」ガルディス・ネイドンの、これが普段の姿だ。

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万能型
下賎の出   不心得者   冷静沈着
利己的    混沌派    好奇心旺盛
過激     楽観的    遊び人
陽気     粗野

【初期所持スキル】
・盗賊の手…入手シナリオ・鼠の行路(SIG 様)

 パーティの盗賊役その1、ガルディスです。
 ハーフエルフで、盗賊で、投げナイフが武器だけどボクシングも強い、……という意味不明なコンセプトのもと生まれたこの男は実はパーティで筋力トップだったりします。
 いやまあ確かに器用と筋力の両方が欲しいと思って、キャラクターに応じた特徴を設定しましたがどうしてこうなったのか……。
 ひとまず盗賊技能、ナイフの投擲術、あとパンチ技を少々覚えさせるつもりです。
 彼のしゃべり方は「じゃりン子チエ」を参考にしてます。
 私が関西弁を書くと普通の表記しかできないので、持ってる漫画を読みながら細かいところを書き換える、ちょっと面倒な作業をしております。

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しがないカードワースのリプレイ書き。とある所でTRPGのプレイヤー&ゲームマスターもしております。
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